2023.07.17 人材育成委員会 EVENT REPORT

加盟社を訪問して交流しながら、スタッフ間の情報共有や親睦を深めるイベント「I.C.E. Meet & Greet」の第3回が2023年6月15日におこなわれました。今回登壇したのは、株式会社電通クリエーティブX  と株式会社エイド・ディーシーシー(AID-DCC)。制作事例を通じた各社の取り組み紹介、さらにはデジタルクリエイティブ業界の交流をおこなうI.C.E.らしく、登壇社の垣根を越えたエンジニアトークも繰り広げられるなどI.C.E. Meet & Greetでは初の試みもあり、トーク終了後の懇親会まで大いに盛り上がりました。

今回は2社がハの字に向かい合う形で並び、イベントがスタートしました。電通クリエーティブXが運営母体となるThink & Craftからは、プロデューサーの松本さんとエンジニアの田辺さん、ファシリテーターを務めたテクニカルディレクターでエンジニアの村田さんが、エイド・ディーシーシーからは、執行役員でシニアプロデューサー / ディレクターの北井さんとデベロッパーの平尾さんが登壇しました。

「Dentsu Craft Tokyo」は体制を強化し「Think & Craft」として再始動(電通クリエーティブX)

冒頭では、電通クリエーティブXの執行役員でI.C.E.の理事でもある多田さんより、今回の会場にもなった、同社が運営母体となる異分野の精鋭クリエーターが集うクリエイティブハウス「Dentsu Craft Tokyo」が、本日(2023年6月15日)付で「Think & Craft」へ名称変更され、チームとして機能拡張、再始動した旨の発表がありました。(※リリースはこちら)業界のこれからには “つくる力” が必要だと強く訴えかける多田さんの言葉に、参加したI.C.E.のみなさんは真剣な眼差しで耳を傾けていました。

多田:「私たち『Think & Craft』は、これまでも活動してきた電通クリエーティブX、Qosmo、spfdesign inc.、Studio Kawashima、Panといったメンバーに、つづく、電通ライブが加わりこの度再始動しました。大事にしてきたクラフト力に、クリエイティブ戦略やイベントなどの体験実装を強化した、統合的なデジタルクリエイティブをワンストップで開発・実装する体制となりました。“つくる力” は、デジタルクリエイティブの世界において、ますます重要になってきています。弊社も2019年からDentsu Craft Tokyoとして、“つくる力” “手を動かしてつくること” を大切に、プロトタイプから新しいアイデアが生まれるよう取り組んできました。そんな “考えること(Think)” と “つくること(Craft)” を行き来し、“つくる力” の可能性をこれまで以上に広げ、次のステージに持っていくという意味を込め『Think & Craft』というチーム名で始動しています。今回登壇させていただくメンバーはもちろん、現在18名のプロデューサーとプロジェクトマネージャー、13名のエンジニアとディクレターが『Think & Craft』に所属しています」

テックトレンドにいち早く対応できる土壌づくり(電通クリエーティブX)

ここから本題となり、まずは電通クリエーティブXのプロデューサーである松本さんより、主な事例紹介がおこなわれました。そのひとつは、美しく壮大な自然の姿を撮影した膨大な数の高精細画像をフォトグラメトリー技術で3DCG化し、まるでアトラクションに乗っているかのような映像で自然を隅々まで表現したWebサイトの制作は、まさに圧巻。他にも、ここ1〜2年での代表的な事例の紹介がありました。ここでは具体的な事例掲載はできませんが、どれも先進的な試みがなされたものでした。

松本:「このように、NeRF、Stable Diffusion、ChatGPTなど、テック界隈のトレンドにいち早く対応できているのは、社内のR&Dプロジェクトで知見を貯めているからです。R&Dプロジェクトは、誰でもチームメンバーになることができ、発案も自由。テクノロジー起点やアイデア起点など、さまざまな切り口で意見を持ち寄り、プロジェクトメンバーで育てていくことが可能です。また、プロジェクト化せずとも、slackなどを使い雑談をするように気軽に交流できる場があることで、新たなテクノロジー、アイデアをどう掛け合わせていけるかを、日々模索し、トライし続けられています」

Web ARの実装におけるポイントとは(電通クリエーティブX)

次に、某ブランドにおけるショーウィンドウを使ったインスタレーションとWeb ARを用いた3Dアニメーション体験の制作事例について、電通クリエーティブXのエンジニアである田辺さんが解説してくれました。

田辺:「Web ARの制作は、2つの軸で構成されています。1つはARのシステムをどう実装するのか。そこで必要になるのが、マーカーの検知技術と平面検知技術です。今回紹介した事例では8th Wallというサービスを使っています。また、もう1つの軸は、Webフロントエンド技術。今回はbabylon.jsで3Dレンダリングを、Next.jsでWebサイト構築をおこなっています」

田辺さんの発表に対し、エイド・ディーシーシーの2人より、さまざまな質問が投げかけられ、技術に対する深掘りがされていきました。

1つ目は、マーカーをかざしてから表示されるまでのローディング時間をどう楽しませるか、どう短縮させるかといった、AR全般で起こりやすい課題についてです。田辺さんは、AR表現ではアプリかWebかの2択であることを解説しつつ、次のように述べます。

田辺:「アプリはリッチな表現をすることが可能ですが、事前ダウンロードが必要となり手間です。今回の事例ではWeb ARを使用し、利用者にとって手軽な体験を目指しました。ですが、そうなると、3Dモデルのデータをいかに軽くするかが重要になります」

紹介事例は、彫刻家が作成した動物の木彫作品を3Dスキャンしデジタルデータ化、そのモチーフが多数動き回る映像表現がWeb ARで体験できるもの。データ量の重さが心配される本例でも、3Dモデルの軽量化について、田辺さんは、なんと80MB程度あったものをテクスチャをWebPに変換したり、メッシュのポリゴン数を削減することで、80KB程度まで軽くしたといいます。そこから派生して、UnrealEngineで作ったCGデータを、Webに落とし込む際の具体的なテクニック、そこでの苦労についても語ってくれました。

さらに、エンジニアはプロジェクトのどの段階から参加しているのか? という話をきっかけに、R&Dプロジェクトや社内コミュニケーションの重要性についても議論が及び、2社間での熱いトークが繰り広げられました。

新感覚の体験型施設『ZUKAN MUSEUM GINZA powered by 小学生の図鑑NEO』の事業参画(エイド・ディーシーシー)

エイド・ディーシーシーの発表では、執行役員でシニアプロデューサー / ディレクターでもある北井さんから同社の紹介がありました。

ビジュアルデザインからブランディング、最新テクノロジーを活用したフィジカルな体験デザインまで、幅広い領域で活動しているエイド・ディーシーシーは、2004年設立と老舗のひとつ。クリエイティブとコンサルティング事業はもちろん、デジタルクリエイティブで培った発想力と表現力を用いて、新しい体験を生み出すデジタルエンターテインメント事業もおこなっています。

今回はデジタルエンターテインメント事業の事例を紹介。東急プラザ銀座に2021年7月のオープンから2年を超える長期間、好評を博した『ZUKAN MUSEUM GINZA(ずかんミュージアム銀座)powered by 小学生の図鑑NEO』について解説してくれました。このミュージアムは、小学館の図鑑NEOシリーズからピックアップした生き物が “デジタル” で可視化され、まるで人と共存しているかのような世界がつくりだされている、体験型のデジタルミュージアムです。佐々木HD、小学館、エイド・ディーシーシー、ドリル、電通、サニーサイドアップ、朝日新聞社からなる「ずかんミュージアム有限責任事業組合」が運営、事業参画しているエイド・ディーシーシーは、コンテンツの企画・制作から長期運用までを担当したそうです。

北井さんから、まずは同ミュージアムの概要が語られていきます。簡単にまとめると、来場者は「記録の石」と呼ばれるガジェットを渡され、それを持って生き物を探す旅に出ます。4つのゾーンに分けられた場所では、朝・昼・夕・夜の時間帯があり、それぞれ出没する生き物が変化します。来場者は現れた生き物との距離を詰めながら「記録の石」で捕獲・記録。最後のゴールエリアでは、どんな生き物を記録したかによって、パーソナルなエンディング体験を迎えるというものです。

各種アプリケーションの連携と制作手法について(エイド・ディーシーシー)

このミュージアムは、小学館の図鑑NEO監修のもと入念に作り上げられていることもあり、「リアリティをテクノロジーで再現するのが大変だった」と北井さんは語ります。ここからは、同社のデベロッパーである平尾さんから、技術的な解説がなされました。


平尾:「バックヤードには、ミュージアム全体を動かすサーバーPC、各動物を動かすコンテンツPCと、総計30~40台のハイスペックなPCを設置しています。また、スクリーンのある各体験エリアには、センサーやプロジェクターを設置し、Beaconを使って体験者がどのエリアにいるかを把握。体験者が近づくと、各動物の動きを変化させ、その情報をサーバーPCに送り、記録の石と連携するようにしています」

リアリティをもって動物との体験ができるよう、動物一体一体に、人が近づく距離でこちらを見たり吠えたり、時には逃げたりといった動きをつけるという、多様なステータス調整が大変だったと平尾さんは語ります。その膨大な作業と微調整が、オープンのギリギリまで続いたそうです。

平尾:「それら動物の情報を一元管理しているのがサーバアプリで、体験の根幹を担っています。今回、各動物のステータス調整のために、エンジニアを介さずともWebのUIから簡単に各種パラメーターを調整できるような仕様で開発されました。何度も実際に体験しながら調整をおこなえる、環境構築の重要性を感じる機会にもなりました」

また、動物の動きに関しては、電通クリエーティブXの事例紹介にもあった、ゲーム開発ツールであるUnrealEngineを使用、計44体を協力会社と共同開発し制作したそうです。その管理ツールは、コストなどの兼ね合いからGitlabを使用しましたが、複数人での開発も役割の棲み分けをすることで、大きな干渉などなく開発できたとのことです。

長期運用において必要なこと(エイド・ディーシーシー)

その他、長期運用が求められる施設ならではの注意点も語られていきました。会も終盤になりましたが、誰もが知るテーマパークの制作事例で知見豊富なエイド・ディーシーシーの発表に、参加者は聞き入っていました。

平尾:「実際の運用は現地スタッフがおこなうことになるので、各PCやプロジェクターの電源を正しい順番で起動・シャットダウンできるWebアプリを制作しました。これにより、起動やシャットダウンにまつわるトラブルはかなり抑えられています。また、Grafanaなどを使い、Web上で各PCの状況(温度など)を把握できるようにもしています。さらに、TeamViewerでは触れない機器もあるため、VPNで運用し、トラブル時に細かい対応ができるようにしています」

その後、電通クリエーティブXチームから、レベル設定や、事前に環境構築Web UIを作った担当者や開発期間についてなど、具体的な質問がされました。

そこで飛び出したのは、意外にも今回のプロジェクトは、企画段階ではあまりウケが良くなかったということでした。しかし、デモを作って見せたところ、局面が好転したといいます。

それらの発言を受けて、電通クリエーティブXの田辺さんは、「企画がしっかりと決まらないときでも、動くものがあることでプロジェクトが急加速することはよくある。そういう意味でも、エンジニアが企画の初期段階でできることがあると感じました。また、環境構築Web UIの事例のように、パラメーターでの調整は大事ですね。調整できる度合いを先にエンジニアが作ってデザイナーなど非エンジニア職に調整を任せる、そういった準備が結果的に功を奏すると改めて思いました」と、今回の発表を総括するような感想を述べて終了しました。

その後は懇親会となり、登壇者や当日の参加者も交えてさまざまな交流が生まれました。

写真提供/I.C.E.総務PR委員会 撮影/西田優太|Yuta Nishida
取材・文/富山英三郎|Eizaburo Tomiyama