2015年春より、I.C.Eはインタラクティブ業界の交流とナレッジ・シェアリングを目的としたトークセッションシリーズ「I.C.E CREATIVE LOUNGE」(以下ICL)をスタート致しました。このイベントでは、各トピックに精通したゲストを迎えてトークセッションを行い、参加者が相互にクリエイティビティを刺激し合える場を目指していきます。
左から木村幸司氏、宗佳広氏、西村真里子氏、中村俊介氏
3月26日(木)、ワン・トゥー・テン・デザイン 東京オフィスにて、第1回目となるセッションを実施致しました。テーマは、今年の3月13日〜22日にかけてアメリカのテキサス州オースティンで開催されたインタラクティブ・フィルム・ミュージックのフェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。ゲストは、SXSWに出展経験のある西村真里子氏(HEART CATCH CEO/Co Founder)、宗佳広氏(ココノヱ代表取締役/デザイナー)、中村俊介氏(しくみデザイン代表取締役)、木村幸司氏(STARRYWORKS代表取締役)の四名。ここでは、当日のトークの内容を抜粋してお届け致します。
第一部 西村真里子氏によるSXSW 2015速報レポート
第一部では、昨年HEART CATCHを設立し、デジタルコンテンツのプロデュースや執筆業などで活躍する西村氏が「そもそもSXSWとは?」というところから解説して下さいました。
西村氏が語る"What's SXSW?"
1987年に音楽祭としてはじまったフェスティバル。1998年からインタラクティブが加わり、近年では7〜8万人もの来場者を動員し、毎年一億ドル近い経済効果を生み出しているといわれています。SXSWといえばインタラクティブというイメージがありますが、じつは10日間の間にインタラクティブ、フィルム、ミュージックの順でフェスティバルが開催される、複合的なイベント。その中の一つ、SXSWインタラクティブは、一夜にしてTwitterやLeap Motionを有名にした、世界最大のインタラクティブフェスティバルです。その主な要素は「キーノート」「トレードショー」「セッション」「ワークショップ」「アウトサイドイベント(敷地外で行われる関連イベント)」「アワード」「ネットワーキング」「バーベキュー」。期間中は1000を超えるセッションが行われ、イベントが目白押しとなります。
その後西村氏は、SXSWが発表した"Trends at 2015 SXSW Interactive"にそってレクチャーを進行。そのリストによると、今年ホットだったトピックは「スタートアップ」「世界各国からの参加者が多いこと」「車/トランスポーテーション」「デリバリーの進化」「IoT」「ロボット」「ソーシャルメディアのダークサイド利用」「ヘルスケア/メディカル」「ソーシャルグッド」「ミュージック・フィルム・インタラクティブを統合したセッション」。
一つ目にあがった「スタートアップ」に関連したコンテンツは年々増加傾向にあり、スタートアップ・ビレッジ(5日間に渡ってセッションやコンペティション、ミートアップなどが行われる場)も拡大しているそうです。
今年のスタートアップ・ビレッジで注目されていたトピックは、「ソーシャルメディア」「ハクティビズム」「トランスポーテーション」「ヘルスケア」「プライバシー&セキュリティ」の五つ。その中でも西村氏が熱いと感じたのは、「トランスポーテーション」。コネクテッドカーやセルフドライビングカーの先を行く空飛ぶ車『AeroMobile』は新鮮でした。
スタートアップの登竜門といわれるコンペティションSXSW Acceleratorでは、日本から参加したクリエイティブエージェンシー SIXが、音楽と同期し歌詞が表示されるスピーカー『Lyric Speaker』でBest Bootstrap Companyを受賞。このほか、部品を検出するアプリを用いたコールセンター向けのソリューション『Partpic』や、ドローンを農作物のリモートセンシングや分析に活用するプロジェクト『SLANTRANGE』などが入賞していました。SXSWのハイライトともいわれるこのアワードをチェックするだけでも、来年のインタラクティブの潮流が見えてきそうです。
つづいて、今回のSXSWのスポンサーをつとめていた車の配車サービス『Lyft』を紹介。これは、スマホのアプリから登録ドライバーを呼び出し、目的地まで乗せていってもらえるというもの。プライベートカーを利用しているのが特徴で、車の正面につけたピンクの髭が目印となっています。『Lyft』はセッションを行い、クーポンも配布していましたが、残念ながら海外旅行者の乗車を受け入れていませんでした。そのため西村氏は、現地での移動にもう一つの配車サービス『UBER』を利用。タクシーより安く、安全性も高いことなどから、移動はほとんど『UBER』に頼っていたそうです。
「こうしたサービスが定着していくことで、不要な車や駐車場もなくなっていく。そういった新しい車と人のあり方を提案しているのが『Lyft』や『UBER』といったサービスなんです。実際に利用した経験からも、セッションからも、車の利用方法が変わっていくということを実感しました」(西村)
そのほか、西村氏は災害時対策ロボットなどを紹介していたペットロボット動物園(Robot Petting Zoo)やNASAブースの宇宙空間で工具を生成する3Dプリンター、IoTに関連したアワード「2015 SXSW Interactive Innovation Awards」に入賞した考えるスピーカー『Cone』等々を紹介。SXSWの見どころが凝縮されたレポートでした。
「SXSWでは今回ご紹介したほかにも、本当にたくさんのことが起きていました。ロボットやバイオテクノロジー、法的な問題など、さまざまな方面から右脳と左脳をマッサージされるようなイベントです。また、社会問題や日本ではタブーとされるような話題にも積極的に切り込んでいて、既存の価値感を問い直す機会としても、非常にいいと思いました。もし、現状に何か物足りなさのようなものを感じている方は、来年チャレンジされてみてはいかがでしょうか。そこから近未来を読み解いていけるような、素晴らしいフェスティバルだと思います」(西村)
第二部 宗佳広氏×中村俊介氏×木村幸司氏が語る、今年のSXSWトレードショー
第二部は西村氏がファシリテーターをつとめ、メイン会場のコンベンションセンターで開催されたトレードショー(展示会)についてトークセッションを展開。今年出展した3名のゲストが現地での反応から、メリット/デメリットまでを語りました。今年、日本からは東京大学関連のスタートアップ企業など、20〜30の企業が出展。西村氏によると「今年の日本ブースは昨年に比べて大きくなっており、盛況でした」とのことでした。
まずは各登壇者が、トレードショーに出展した製品を紹介。ココノヱ代表取締役/デザイナーの宗佳広氏は『らくがき動物園(The Doodle Zoo)』と『撃墜王ゲーム(The Doodle War)』を出展しました。『らくがき動物園』は、ノートに描いた動物にスタンプを押すと、動物がノートから飛び出し動きまわるというインスタレーション。『撃墜王ゲーム』は、カードに描いた戦闘機がモニタ内で戦いを繰り広げる、アナログ/デジタルの枠を超えたカードゲームです。
STARRYWORKS代表取締役の木村幸司氏は、インタラクティブに読める絵本『PLAYFUL BOOKS』を紹介。専用の絵本にスマートフォンをセットすると、ページごとに音や光による演出が楽しめるようになっています。Philips『hue』を用いた照明との連携や、オリジナルの絵本がつくれるキットなど、拡張性にも富んでいました。
しくみデザイン代表取締役の中村俊介氏は自ら演奏を行い、楽器アプリケーション『KAGURA』を紹介しました。これは、パソコンのウェブカメラに向かってジェスチャーをつくるだけで、音楽を演奏できるというもの。Intel Perceptual Computing Challenge 2013のグランプリにも選ばれました。
現地での反応についてたずねると、宗氏は「ブースには絶え間なく人が訪れ、美術館やイベント制作会社さんなどが声をかけてくれました。只、すぐビジネスへ展開する話に進んでいくので、こっちの出展目的があやふやだと、回答もあやふやになってしまう。目的や、どうやってマネタイズしていくかということを明確にしておく必要があると感じました。この反省をふまえて来年も参加したいです」とコメントしました。
来場者から有効なアドバイスが得られたと語ったのは木村氏。「トレードショーでは、出会った方が色々とアドバイスをしてくれます。それで『PLAYFUL BOOKS』は出版社にアピールするべきプロダクトだということがわかりました。現在ニューヨークなどのブック・エキスポへの出展を検討しています」
デメリットについては、全員「コストがかかる」という点で一致。渡航費や宿泊費、出展料に加え、会場での機材レンタル費や食事代はかなり高額だそう。
中村氏は「今回はアプリのダウンロード数を上げることとメディア露出を目的に出展したのですが、トレードショーは費用対効果が悪いと感じました。トレードショーに出すなら、僕はアワードの方をお奨めしますね。また、予算があるならSXSWの外でイベントを仕掛けるのも効果があると思います」とコメントしました。
最後に西村氏が出展者へのアドバイスをたずねると、まずあがったのは「ホテルは早めにおさえる」ということでした。中村氏は「1月の時点で高額なホテルしか空いていなかったため、かなり宿泊費がかさんでしまいました」とコメント。半年前にはホテルやAirbnbなどの宿泊施設をチェックしておきたいところです。
2点目は「英語は喋れた方が良い」ということ。いずれのゲストも、英会話スクールに通う、ネイティブのスピーカーを現地に伴うなどの対策を講じていました。
木村氏は「事前につくっておいた英語のプレゼンテーションビデオは、かなり役立ちました。また、ビジネスの話が具体的になってきた時には、ネイティブスピーカーによる通訳も必要ですね」と語りました。
このほか、用意していくべき資料やメディアへの告知方法など、実際の出展に役立つTipsが語られました。トレードショーへの参加については賛否両論あったものの、SXSWが魅力的なイベントであり、また訪れたい場所であることには変わりなかったようです。セッションの後は懇親会を開催し、盛況のうちに幕を閉じました。ICLではこれからも、旬の話題にフォーカスしたトークセッションを開催していきます。今後の活動にもご期待ください。
登壇者プロフィール
西村真里子・にしむらまりこ(HEART CATCH CEO / Co Founder)
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobe、Grouponにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年株式会社HEART CATCH設立。ユニークで幅広いキャリア経験とテクノロジーとマーケティング、そしてデジタルクリエイティブ領域の知識を活かして企業・スタートアップ・コミュニティーへのコンサルティングからエグゼキューションを担当。
宗佳広・そうよしひろ(ココノヱ 代表取締役 / デザイナー)
(株)ココノヱ 代表取締役とデザイナー。同志社大学卒業後、京都造形芸術大学を卒業。ウェブサイト、インスタレーション制作の企画からアートディレクション、デザインを主に、テクニカル部分、プログラミングにも携わっている。文化庁メディア芸術祭、Adobe MAX Award、FITC Award入賞。好きな関取は千代の富士。
中村俊介・なかむらしゅんすけ(しくみデザイン 代表取締役)
1975年生まれ。名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)にてメディアアートを制作しながら研究を続け、博士(芸術工学)を取得。2005年、世の中を楽しくするしくみをデザインするため、しくみデザインを設立。2013年にはインテルの国際コンテストで世界一になるなど受賞も多く、参加型サイネージやライブコンサートのリアルタイム映像演出等、数々の日本初を手がけている。
木村幸司・きむらこうじ(STARRYWORKS 代表取締役)
1981年大阪府生まれ。2006年に株式会社STARRYWORKSを設立し、同社にてインタラクティブコンテンツや、グラフィック、映像などの企画、制作を手がける。