2015.11.17 クリエイティブ委員会 EVENT REPORT

9月4日(金)、東京・品川のワン・トゥー・テン・デザインにて第2回 I.C.E CREATIVE LOUNGEを開催いたました。

今回のテーマは、ロボット。今、注目のロボットに携わっている水道橋重工の倉田光吾郎氏、インビジブル・デザインズ・ラボの松尾謙二郎氏、ワン・トゥー・テン・デザインの長井健一氏をお招きし、プレゼンテーションとトークセッションを行って頂きました。

左から鍛治屋敷圭昭氏、松尾謙二郎氏、長井健一氏、倉田光吾郎氏

この日、控え室ではロボットとは何ぞやという話題が持ち上がっていたそう。
松尾氏によると、もともとロボットには"人間と似たような動作をするもの"という意味合いがあるそうですが、バックグラウンドの異なるクリエイターが集まれば、つくるものも考え方も、じつにさまざま。ロボットはまだまだ定義が定まっていない、自由度の高い分野なのです。
この日は、三者三様のロボットについて語って頂きました。それでは、松尾氏のプレゼンテーションからご紹介致します。

松尾謙二郎「音楽ロボットの可能性について」

松尾氏が代表を務めるインビジブル・デザインズ・ラボは、音楽制作を中心としたメディア・アートクリエイターチーム。
自社プロジェクトとしてメディアアートを手がけつつ、CMやイベントの音楽制作などを手がけています。

1996年頃から作品に音楽の要素を取り入れ始めたという松尾氏。たとえばNTT docomoのWebCM「森の木琴」にも、松尾さんの音楽的センスが生かされています。このCMでは、山の斜面に設置された木琴が奏でるバッハの「カンタータ第147番」のサウンドデザインを担当しました。

そのほかに、手に障害をもっている方がアイトラッキング(視線追跡)機能をもつヘッドマウントディスプレイ「FOVE」を用いて、目でピアノを弾くプロジェクト「EYE PLAY THE PIANO PROJECT」などを紹介。
松尾氏は、こうした音楽的な作品を動かすためには、時間を制御することが大事だといいます。
じつは時間の制御と機械の制御というものは非常に近いのだそう。
そして2013年、世界的に話題になったロボットによるバンド「Z-MACHINES」を発表しました。

松尾 音楽をからめた作品を色々とつくっているうちに、飲料ブランド「ZIMA」のプロモーションのために音楽を演奏するロボットをつくってくれ、という話が来たんです。僕は最初「制御は得意だけどロボットは無理でしょう」と断っていたんですが、じりじりと押し切られて(笑)、TASKOの木村匡孝さん、林立夫君、ハウンテッドの米塚尚史さん、堀尾寛太くんたちと自動で演奏するロボットをつくりました。

こうして完成したのが78本の指を持つギタリスト、22本の腕を持つドラマー。
この2体にレーザーで演奏するキーボーディストが加わり、3体のロボットによるバンドが誕生しました。

松尾 最初はアクリルを手で切り出したちゃちなアームでドラムを叩かせるところからはじめました。で、「これに体をつけたらロボットが演奏していることになるんじゃないの?」ということで米塚さんに体をつくってもらい、1年かけて3体のロボットをつくり、LIQUIDROOMでライブもしました。実際にしっかり機能しているのは楽器を弾いている手の部分です。この辺りは、楽器屋出身の林君が設計に携わってくれたおかげで、人間を凌駕するほどの技術をもつロボットができました。

このロボットが反響を呼び、ついには英国のテクノミュージシャン、Squarepusherがこのロボットをフィーチャーしたアルバム「Music for Robots」を制作するまでに。海外からはいまだに反響があり、ライブで使いたいという問い合せが来るそうです。

印象的だったのは、"パソコンの中から飛び出したい"という願望とロボットがリンクしたという話。

松尾 最近はパソコンを使った表現が主流になり、Webが普及して画面の中に表現が集約されてしまった。でも、僕の中にはずっとパソコンからはみ出してナンボだ、という思いがあったんです。その思いとロボットがリンクしたところがあって、周りの人たちとコラボレーションしながら、自分のやりたいことができるようになってきました。近年は会社の中で作家性のある作品をつくるのはなかなか難しくなっていると思いますが、僕達は「研究開発費」というものを設け、仕事の前に自分たちで作品をつくるということをテーマにしています。やっぱりそういうことが大事なのではなかろうか、と。これからも音楽を軸に新しいことに挑戦していきたいと思います。

倉田光吾郎「KURATASの未来」

続いて、人間がコックピットに搭乗し、操縦もできる四脚陸戦型巨大トイロボット「KURATAS(クラタス)」を制作した倉田氏がプレゼンテーションを行いました。

鉄工業を営む家に生まれ、幼い頃から父の仕事を見て育ち、ものづくりへのハードルを感じたことがなかったという倉田さん。高校生の夏休みに鉄のベースギターをつくり、その作品がリクルートの公募展「FROM-A-THE-ART」にて佳作を受賞。それがきっかけで18才にして初個展を開くことになり、以来、タイプライターのような形に改造されたMacやドームハウスなど、さまざまな作品や建造物を手がけるようになりました。ロボットの原型ともいえる作品を手がけたのは29才の時。

倉田 「FIAT500」という車が欲しくて、ヤフオクで30万円で買ったんですよ。で、それを丸ごと改造したんですけど、自分で改造した車に乗るのが、だんだんと恐怖に感じてきまして。それでヤフオクでユンボ(油圧ショベル)を買い、その上に乗っけて動くようにしたんです。その時に油圧シリンダーを使えるようになったので、これをもうちょっと真剣にやったらロボットがつくれるよね、となって。そうなったら、つくってみるしかないじゃないですか。

それから、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」をモデルにしたロボット制作がスタート。
まずは模型をつくって検討し、設計が決まったら鉄でかたちにする。そこで問題が出たら再度模型で検討する――ということを繰り返し、徐々に等身大のボトムズをつくり上げていきました。制作開始とともにはじめたブログ「なんでも作るよ。」も、じわじわと人気に。

ところが、機能を増やしていくうちに、大きな壁にあたりました。操作ボタンが60個を超え、制御が困難になってきたのです。その時に出会ったのが"秋葉の狂犬"こと吉崎航氏。吉崎氏のアイデアによって、パソコンの中で動きをシュミレーションさせ、リアルタイムに反映させるシステムを導入しました。

倉田 彼のシステムを入れたら、急にロボットの動きが変わったんですよ。その時はゾクッとするものがありました。やっぱり、そこに人を模したものが立ち現れた瞬間に"人だけど人じゃない"みたいな、特殊な感情が生まれるんでしょうね。

そして2012年、2年の歳月を経てボトムズの実物大スコープドッグが完成。幕張メッセで行なわれたワンダーフェスティバル2012[夏]で初お披露目をすると、大反響を呼びました。

気になるのは、今後のビジネスプランです。倉田氏はそんな疑問に応えて、これまでの営業活動も紹介。石油王を一本釣りするために、KURATASを1億2千万円でAmazonに売りに出したところ、ドバイから問い合せがあり、現地まで行って来た時の話など、映画並みの希有なエピソードを語りました。

最後にお話頂いたのは、今、KURATASにまつわるもっともホットなトピック。
今年の7月、突然倉田さんのもとへ届いたビデオ。それは、アメリカで巨大ロボットをつくっているMegaBotsからの挑戦でした。
そして、こちらがその挑戦に応えた、水道橋重工業からの返答です。

倉田 彼らの言い分としては、KURATASが先に完成したために、我々は世界一になれなかった、だから決闘を申し込む、と。この挑戦は買おうと思っています。対戦は、ペイントボールの撃ち合いなのですが。今は場所などを検討していて、まだ詳細は発表できません。というわけで、来年の夏に戦います。KURATASでございました。

闘争心剥き出しのMegaBotsと「全力で遊んでやんよ」と余裕のかまえを見せる、平和重視の倉田氏。これは要注目の戦いとなりそうです。ブログ「なんでも作るよ。」の方も、ぜひチェックしてみてください。

長井健一「コミュニケーションロボットの可能性」

最後にプレゼンテーションを行ったのは、ソフトバンクの感情認識パーソナルロボット「Pepper」の開発に携わっている長井氏。まず、どんなことを行っているのかということからお話し頂きました。

長井 僕達が担当しているのは会話の基本となる、会話エンジンの開発です。発話に至るまでの仕組みは、僕達がつくった会話コンテンツをペッパーにインストールし、そこへクラウドのAIであったり、ペッパーの感情を認識する機能などが合わさり、最終的に発話に至る、といったものです。

ワン・トゥー・テン・デザインに入った当初は、ロボットの開発に関わるとは思ってもみなかったという長井さん。開発には、意外にもWeb制作の知識が生かせるといいます。

長井 Pepperはプラットフォームなんです。どういうことかというと、Pepperには直感的なSDK(ソフトウェアデベロップメントキット)があるので、スマートフォンと同じように個人のデベロッパーがアプリをつくってストアに並べ、ユーザーが好きなアプリをダウンロードしてPepperの振る舞いを決める、という楽しみ方ができるんです。アプリをつくって、Pepperを介したアウトプットがすぐに見れるのは、非常に楽しいです。楽しいというのがいいですね。

こちらは、Pepper2体と人間が会話する"未来の会話"をシミュレーションした映像。

Pepperがもう1体のPepperの声に反応しているのが可愛いですね。
現在はショップで洋服などを勧めるレコメンドシステムのプロトタイプも開発しており、店頭でセンサーから得た情報と会話から得た情報をクラウド上のデータベースと照合させ、顧客の趣向に合った服を勧めるといったことも行っているそうです。

長井さんによると、Pepperとふれ合った方へアンケートをとったところ、圧倒的に女性からの「可愛い」という声が多かったとか。20代~年配の女性の8割の方が5段階評価で4以上をつけたそうです。これからは"可愛らしさ"が生かせるサービス業や介護分野などに活躍の場が広がるかもしれません。

ワン・トゥー・テン・デザインでは現在、ロボット開発に携わる人材を募集しています。興味のある方は、ぜひ下記のサイトをチェックしてみてください。

1-10design Recruit

長井 僕達は今、未来とつくろうとしています。一緒に未来を作りたいという方はぜひご応募してください。以上です、ありがとうございました。

トークセッション:ロボットビジネスはどこへ行く?

後半は、鍛治屋敷圭昭氏(AID-DCC Inc. )が司会を務め、トークセッションが行われました。

鍛治屋敷 今日のお話をお伺いして、三者三様に思われることがあったと思います。松尾さん、いかがでしたでしょうか?

松尾 僕は、やっぱりこれからはAIがテーマになってくるのかなと思っているんだけど、今のところ本当の意味でAIを搭載したロボットって、ほぼ皆無なんですよね。AIがこれからどう発展していくか、ということには興味がありますね。

長井 難しいところですよね。皆さん、ディープラーニングって知っていますか?ディープラーニングというのは、人の脳のニュートラルネットワークをもとにした機械学習の手法のひとつですが、基本的にはビッグデータありきで、"確率的にこうだからこうなんじゃない?"というアプローチなんです。この手法というのは、画像解析や音声認識にはすぐに応用できるのですが、自然言語処理にはまだ向いていない。そうなると、お客さんの声のデータを解析できない、なんてこともままあるわけです。僕としては、ゆくゆくはそういった自然言語処理まで取り組んでいかなくてはと思っています。

鍛治屋敷 倉田さんはどうですか?

倉田 そうですね。ぶち壊すようで申し訳ないんですけれど、まったく興味がなくて。

一同 (笑)

倉田 なんだろうな、ロボットっていうものが、まだ"ロボットって何ぞや"っていわれるぐらいのラインなんですよ。まだ誰も、何だかわかっていない状況。そうした中で僕が思うのは、夢が現実になっていく時って、喜びと同時に"現実ってこんものなんだ"というがっかり感があるんですよね。それで今、ロボットが現実になればなるほど、つまらなくなっていってしまうのかな、という危惧があるんです。でも、まだ夢を持っていたい。だから、つくる側ももう少しその辺を意識して、一緒に楽しもうよ、というところをもっと出していきたいですね。

松尾 そういう意味では、KURATASには夢がありますよね。

倉田 夢しかない。

一同 (笑)

ヒューマノイドロボットの魅力

鍛治屋敷 お三方とも人型のロボットを手がけていますね。

松尾 人型ロボットがいかにキャッチーか、というのは実感しましたね。「Z-Machines」はハリボテのような人型ロボットですが、頭がついていて体が動いているだけでも、かなり演奏しているリアリティが出るんですよ。人型ロボットというのは、本当に日本のお家芸なんだと思います。アメリカのBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)のプロトタイプとかを見ていると、あっさり外国に抜かれてしまうんじゃないの、と思いますけれど。

長井 今年の6月に、Cannes LionsにPepperを何台か持っていってセミナーを開催したんですが、その時のデモで、お客さんにPepperとハグをしてもらったんです。そうしたらそれが好評で、涙を流した方までいて。僕もハグをしたんですけど、少し暖かくて「おお」と思いました。

松尾 昔、黒柳徹子さんがソニーの「AIBO」を愛でている映像を見て、あそこまで感情移入できるのか、と驚いたことがあります。これからは、シニアの方のペットなんかにもいいかもしれないですね。

最後に鍛治屋敷氏から、これからロボットをつくってみたいという方へアドバイスを、というリクエストが。それぞれにお答えいただきました。

松尾 とにかく実際に手を動かしてみるというのがいいです。たとえば、おもちゃ屋さんで売っているロボットを分解するということから始めてもいいのではないでしょうか。レゴの「マインドストーム 」や、TASKOの木村君が薦めている「TAMIYA」のショップもお薦めです。初めてハードが「動いた!」という時の驚きって、最初に"Hello world"と書いた時の感動と大差ないです。ぜひやってみてください。

倉田 すでにあるものをどうにかするのも有りだと思うのですが、誰も見たことがないものをつくってみよう、というのも大事。自分がやりたいことをきれいに表現できていれば、手助けしてくれる人が必ず現れる。だから、たとえ自分にできないことがあっても、意外と何でもできます。

長井 そうですね、僕自身はペッパーをもっとできる子にしたいと思っているので、もし興味をもたれた方がいたら、ぜひ開発に挑戦して頂けたらと思います。

この日は、他にもさまざまなトピックが語られたのですが、すべてをご紹介できないのが残念です。

I.C.E CREATIVE LOUNGEでは、これからも各分野のフロントラインに立つクリエイターたちのリアルな声をお届けしていきたいと思います。
最後に、本当に多忙なスケジュールの間をぬってご登壇頂いた倉田光吾郎氏、松尾謙二郎氏、長井健一氏、貴重なお話をありがとうございました。次回もお楽しみに!

登壇者プロフィール

倉田 光吾郎(水道橋重工 CEO / Co Founder)
1973年 東京生まれ。独学にて鍛造を学び打撃系クリエイターとして活動。2005年 1/1スコープドック、2007年 カストロール一号の製作を経て、2011年人型四脚陸戦型巨大トイロボット クラタスを製作。アメリカの巨大ロボ製作会社のメガボッツ社に喧嘩を売られ、2016年に初の巨大ロボ同士の殴り合いを予定している。

松尾 謙二郎(インビジブル・デザインズ・ラボ 代表)
サウンドを軸にしたメディア・アートクリエイターチームとして活動中。"音"という見えないメッセージと"アイデア"という見えないデザインを、"見える"ようにしていくことがコンセプト。"作家として常に新鮮なものを作っていく野生的な姿勢"、をモットーに日々作品を生み出している。

長井 健一(1→10design取締役 / 最高技術責任者 / テクニカルディレクター)
およそ3年に渡り、ソフトバンクのコミュニケーションロボットPepperの開発に参画。これまでのFlashでの体験制作やWebシステム開発を経験を基に、主に会話体験やキャラクター開発において、クリエイティブ面・技術面でプロジェクトを牽引してきた。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞など、国内外の受賞経験多数。1980年新潟市生まれ。

鍛治屋敷 圭昭(AID-DCC Inc. プログラマー、ディレクター)
某広告代理店にてストラテジックプランナー、制作ディレクター、プロデューサーなどに従事したのち、やっぱり自分で手を動かしてつくりたくなり、2014年2月にAID-DCC Inc.に入社。現在はフロントエンドのプログラミングを中心に、テクノロジーが必要とされる業務全般を担当。