インタラクティブ・クリエーションの業界は、メディア表現が多岐に渡るため、制作の実態が見えにくい。そこで、業界最前線で活躍する制作プロダクション9社が集い、アイデアの出し方」「制作の裏話」「どんな人材が求められるか?」など、ここでしか聞けないリアルな現場事情を伝える「I.C.E リクルートセミナー」を京都のロフトワークMTRL KYOTOで開催しました。
【登壇者】
ファシリテーター:福田敏也(株式会社トリプルセブン・インタラクティブ代表取締役)
登壇者:木下謙一(株式会社ラナエクストラクティブ)
小池博史(株式会社イメージソース)
小川丈人(株式会社ワン・トゥー・テン・デザイン)
遠崎寿義(ザ・ストリッパー ズ株式会社)
富永幸宏(株式会社エイド・ディーシーシー)
原冬樹(株式会社ワンパク)
村田健(株式会社ソニックジャム)
インタラクティブ要素を盛り込んだワークス紹介
はじめの登壇者は、株式会社ラナエクストラクティブ代表の木下謙一氏。
今回は、いつもの広告系の事例からちょっと離れたワークスとして、社内のクリエイターの自主性を活かした「NEXTSTAR(ネクストスター)」を紹介。これは、タレントのオーディションを、SNSを組み込んでデジタル化するというものでした。また、ソニーの社内ベンチャーと組んで制作をした「みんチャレ」は、三日坊主を防止するアプリ。5人1組になって、チームで決めた「新しい習慣」をサボらないようにオンラインで報告し合うというものでした。
続いて、10年前からデジタルサイネージやインスタレーションを手掛ける、株式会社イメージソース代表の小池博史氏が登壇。
こちらはサントリーの焼酎「鏡月」のキャンペーンサイト「ふんわり妄想マンガシアター」の制作秘話を紹介。浅野いにおさん、西島大介さん、今日マチ子さん、桜沢エリカさんといった人気漫画家とコラボした、Webならではの表現手法に大きな注目が集まりました。
コミックを読み終えたあとにリロードすると、人物たちのモノローグが変化し、女性目線の物語が男性目線に変わるものや、アクセス数が増えるほどに物語も追加されていくものなど、何度も「読ませる」仕掛けは大好評。驚くほどのアクセスを獲得したそうです。
株式会社エイド・ディーシーシーの富永幸宏氏は、大阪USJにて展開された「妖怪ウォッチ」のアトラクション用のガジェット制作など、近年増えてきた体験型のエンターテインメント事例を紹介しました。
特に異色だったのが、大塚製薬のインドネシア工場のアトラクション制作。工場見学が盛んなインドネシアでの差別化をはかるため、見学時に子どもたちへ配る電子タブレットを制作したそうです。タブレットを持ちながら工場見学をするというデジタルの経験を取り入れることで、子どもたちの思い出に残る作品となりました。
広告コミュニケーション、ロボティクス、プロトタイピング、空間デザインの4つの事業をベースに行う、株式会社ワン・トゥー・テン・デザイン代表の小川丈人氏は、ドラマティックなビデオ上映を通して作品をプレゼンテーション。企画した「ソードアート・オンライン」のアルファテスター(開発初期段階のデモプレイヤー)の募集イベントは、3Dスキャンデータやセンシングデータをオンライン上で活用するという取り組みに挑み、多くの反響を得たそうです。
デジタルコミュニケーション、ウェブサイト、モーショングラフィックス、インスタレーションデバイスなどを手掛ける、株式会社ソニックジャム代表の村田健氏は、残念なことにウェブサイトの公開はNGとのことで、知ることのできたのは会場に足を運んだ方のみ。「デジタルとリアルが絡みあうとき、大きなインパクトを持ちうる」と語りました。
最近はスマホのゲーム開発を進めるという、ザ・ストリッパーズ株式会社代表の遠崎寿義氏は、オセロとトレーディングカードゲームを組み合わせたスマホゲーム「逆転オセロニア」を紹介。オセロという定番ゲームに新たな戦略性を加えたことで人気を集め、デイリーアクティブユーザーは15万人を越えるというヒット作へと進化しました。開発には2年の月日を費やし、現在は50人以上が関わる大作にもなっているそう。大規模な開発ならではの制作ストーリーを伺うことができました。
テクノロジーとクリエイティブを使って、ビジネス(クライアント)の課題を解決する、株式会社ワンパク代表の原冬樹氏。ワンパク社が手がけるほとんどの仕事は、サービスプランニングやオウンドメディア構築など、長期的に携わるもののようです。最近ではベネッセの小学生向けのデジタルパットを担当。子どもたちの習熟度や達成感を提供することを考え、何度も議論を重ねながら構築していったそうです。
熱のこもった事例紹介で持ち時間をオーバーする登壇者が多数。休憩を挟んでパネルトークが行われました。
リアルとデジタルの境目を繋ぎ合わせるプロダクト
続くパネルディスカッションでは、ファシリテーターの福田敏也氏によるデジタルクリエイティブの現状解説から始まりました。
「現在はリアルとデジタルの境目がなくなり、街とインターネットが融合していく時代。そんな世の中に対して、各社がこれまで築いてきたデジタル・クリエイティブのノウハウはとても重要になってきています。データとリアルが横断的になった時代にこそ、テクノロジーをどう扱えるか。I.C.Eに参加している各社は、インターネットとリアルをつなぐ場を開拓していける会社が集まっている」と語りました。
そして、今回の最大のテーマは「リクルート」。話題は各社の採用条件や人事に移っていきました。「若い人に期待することは?」という質問に対して、村田氏が「これまで、新人のバックグラウンドを見るときに、美大か、一般大か、理系の大学かで判断してしまうところは少なからずありました。しかし、そうした境界が曖昧になっているところを自分たちは開拓している。その両方の素養を持ち、文理に関係なくクリエイティブを追求できる」と回答。専門性に頼るだけではない、「クリエイティブへの感性」がこれからのキーポイントとなると語りました。
まずは業界をのぞいてみよう
参加した会場の学生からは、「インタラクティブなことに興味があり、楽しい体験をつくることを仕事にしてみたい。だけど、それぞれの会社で、自分がどんなことをすればいいかわからない」と質問が。
そこで福田氏は機転を利かせ、登壇者にこんな質問を投げかけました。
「何かを勉強すれば、この会社で働けるという一定の法則はありません。例えば親戚が自分の会社に入りたいと言ってきたら、なんて話しますか?」
これに答えた小池氏は、「姪が学生で就職活動をしていてIT系に行きたいと相談されました。その理由を聞くと、なんかおしゃれっぽいからっていう(笑)。そうじゃなくて、ネットやサービスやツールをよく観察して、自分の目と頭で考えてほしい」と、実体験に基づいたヒントを与えてくれました。
社風の雰囲気ではなく、実際に何をしているのかに興味を持つことが就職へのスタートライン。まずは各社の事例をよく知ることが第一歩なのかもしれません。
I.C.Eのセミナーも回を重ねるごとに、登壇者同士のコミュニケーションも密になり、トークも弾んでいる様子でした。これから就職する方々に対して、知見を共有してヒントを提示した和やかな場となりました。