インタラクティブ業界の情報共有や交流を目的としたカンファレンス型イベント、I.C.E CREATIVE LOUNGE(以下I.C.L)。今回は、3月中旬にアメリカのテキサス州オースティンで開催されたインタラクティブ・フェスティバル「サウス・バイ・サウスウエスト」(以下、SXSW)をテーマに、2016年5月11日、株式会社ソニックジャムを会場に開催されました。
登壇者には、デジタルコンテンツのプロデュースや執筆業などで活躍する西村真里子氏(HEART CATCH 代表取締役)、トレードショー出展者の佐々木哲也氏(株式会社富士通総研)、網盛一郎氏(Xenoma Inc.)、木原共氏(phonvert)を迎え、それぞれの見てきたSXSWが紹介されました。
第1部 SXSWレポート(Heart Catch代表/SENSORS編集長/西村真里子)
始動から30周年、オースティンの街を変えたSXSW
まずは西村氏がSXSWの成り立ちから解説。舞台はアメリカ・テキサス州オースティン、発端は、80年代のニューヨークで音楽フェスが盛り上がっていることを受け、テキサス出身の音楽プロデューサーたちが「地元で音楽フェスをやりたい」という想いから始まったことだそう。後に映画やインタラクティブなどの要素が加わり、いまのような形式なったとのことです。
現在のオースティンの街は、大企業やベンチャー企業が増えてシリコンヒルズと呼ばれるほど。SXSWに関しても街をあげての盛り上がりを見せ、現在の経済効果は35億円の利益が上がっているそうです。
会期中は、街中がSXSW一色に。今年は30周年ということもあり、その盛り上がりは過去最高潮に。なんとオバマ大統領を迎えての基調講演をはじめ、ロックの大御所イギー・ポップやレディー・ガガなどもステージに上がるなど盛りだくさんでした。
SXSWの今年の来場者数は、合計82カ国から約7万2千人。SXSWならではの特徴として、10日間寝食を共にしながらセッションを聞き、ディスカッションするという環境は、次のビジネスを産むポテンシャルのある特別な場となっているそうです。
イベント自体の内容は、インタラクティブ、フィルム、音楽がイベントの主軸となり、今までになかったAR/VRエキスポが増えたのが今年の印象。全体を通してインタラクティブの要素が多く用いられていたと西村氏は語ります。
2015年はライゾマティクス・リサーチとMIKIKOの演出によってPerfumeがライブパフォーマンスを披露したと思えば、今年は水曜日のカンパネラが出演して会場を盛り上げたそう。
そしてロボット工学者の石黒浩教授(大阪大学)によるテーマセッション「人工知能が来る未来」が、日本人では初めてのSXSWオフィシャル・フィーチャード・セッションとして取り上げられるなど、日本人の参加も多く見られるのが近年の傾向。石黒浩氏はNTTと共同開発したアンドロイドを発表し、登壇中は人間と自然な会話が体験できるアンドロイドとの雑談を披露し、会場を驚かせたそうです。
インターネットの次にくるものは? 今後の注目キーワード
西村氏が特に感動したセッションは、ヒッピー文化の盛んだった60年代からテクノロジーを追い続け、アメリカ版『Wired』を立ち上げたケビン・ケリー氏のセッションだったと語ります。
新著『〈インターネット〉の次にくるもの 未来を決める12の法則』を出版予定(現在発売中)のケリー氏は、著書の中から3項目を紹介してくれたそうました。
ひとつめは「コグニファイ」。ケビン・ケリー本人が作った造語で、人工知能やコンピューターと人間の生活がよりいっそう交わっていく社会を訴えています。
ふたつめは「バーチャリティ」。 VRを使った領域が今後ますます生活に入ってくる。
そして最後は、「トラッキングデータ」。データをトラッキングする行為は、今まで以上に日常で欠かせなくなり、私たちの生活を変えてくるものになるとケリー氏は語ったそうです。
オバマ大統領の語った「シビックエンゲージメント」
オバマ大統領の基調講演でキーワードとなった単語が「シビックエンゲージメント」。テクノロジーを活用して、市民が自らそれぞれの周囲にある社会問題に取り組んでいこうとする姿勢を指します。
これまでは、行政の力に頼るほかなかったような社会問題を、市民自らがコミュニティをつくり、テクノロジーの力を駆使して解決していく時代がやってくる。
たとえば教育や医療、そして投票システムなどはテクノロジーの活用もめざましく、今後はもっと拡張されていくだろう、とオバマ大統領は語ったそう。
シビックエンゲージメントに詳しい佐々木氏からは次のようなコメントが。
「シビックテックは、データを使った市民の経営戦略。SXSWはテクノロジーやエンターテインメントが中心のイベントだと思われがちですが、最近ではこうした政治や社会問題に関わるものがホットな話題になってきています」
第2部 トレードショー出展者が語るSXSW
次は、SWSXに出展した日本人の「ナマの声」を伝えるべく、出展者によるプレゼンテーションが始まりました。
最初は富士通総研・佐々木氏のプレゼンテーションから。佐々木氏の仕事は、メーカーや通信のキャリアに対するコンサルティングを主にして、ハッカソンのプロデュースをして出てきたアイデアを事業化する仕事などをしています。
2015年は漢方薬のICT化を試みたコンテンツを出展し、漢方をデジタルヘルスの文脈で紹介。2016年はセンサーシューズのプラットフォームを展示。靴からデータを取ってダイレクトにフィードバックするというもの。こうした作品をSXSWに出展することでイノベーションの許容範囲を調べています。最後に、もし出展するのならコンテンツとして強いだけではなく、その先にどういうストーリーがあるのかを配慮して、普及させた時に世の中がどう変わっていくかを考えることが重要だと語りました。
続いて、網盛氏の所属するXenoma Inc.は、昨年の11月に起業したてのベンチャー企業。東京大学のベンチャーをSWSXに連れていくプロジェクトのメンバーとなり、次世代スマートスーツ「e-skin」を出展したそうです。
「e-skin」とは無配線でストレッチできる布から、モーションキャプチャーを可能にしたもの。身体中のすべてがセンシングでき、ターゲットはゲーム、ヘルスケア、スポーツなどに幅広く応用できます。現在のプロトタイプバージョンから、実際への製品化を進める真っ最中。SXSWでは一つひとつの機能や製品に対して、ダイレクトな反応がすぐに返ってくることに驚いたそう。
木原氏のphonvertは、慶応SFCの4人と東大生による学生のチーム。「Internet Of Things」の概念があまり広がっていないという思いから、みんなが持っている中古スマートフォンを使ってIoTを普及できないか、という発想を提唱。この「phonvert」プロジェクトは、中古のスマートフォンに新たな機能を付加していくというもの。wi-fi環境と既存デバイスがあれば、どんなものでもアップデートが可能になるのです。
「リサイクル」と同じように、「phonvert」という単語を日常に定着させたいと語る木原氏。SWSXのブースではphonvertのアイデアを募集したところ、最終日にはたくさんの人のアイデアが集結し、各国のメディアに紹介されたそうです。
出展者三者によるディスカッション
大企業やベンチャー企業など違う立場からSWSXに出展した三名のプレゼンテーションが終わり、ディスカッションが開始。西村氏から「なぜSWSXを目指したのか?」という問いが投げ掛けられ、3者からは興味深い反応が。
「今回は、ファンド(投資)のあり方のリサーチが主な目的。Kickstarterで注目されたり、TwitterやPintarestのような投資家を見つけたりする以外の方法を知りたいと思ったんですね。イノベイティブなアイデアは一概に評価できないものなので、何が当たりでそうでないのか、リトマス試験紙のような調査をしてきました」(佐々木氏)
「SWSXは企業の展示会とは違って、コミュニティを作る場といえるかもしれません。その場で知り合った人がレスポンスをしてきてくれる。偶然出会いのなかでビジネスが生まれることをよく知る人が集まっているという印象を受けました」(網盛氏)
「企業の一方的な発表の場でもなく、出展者と来場者の境界線が曖昧。気付いたら仲良くなって、オースティンの街へ飲みに行くなんていうこともしばしば。アイデアソンをいきなり仕掛けても、すぐに受け入れられてくれるインタラクティブな場だと思いました」(木原氏)
自作のプロダクトを海外に持ち運んで知ってもらうという、ハードルの高い経験をこなした出展者たち。ここからの成長も楽しみです。
TEXT BY 髙岡謙太郎
EDIT BY 塚田有那