今回のI.C.E. CREATIVE LOUNGE(以下ICL)は、音楽とテクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2018」に参加した3名のゲストが登壇し、SXSW2018を振り返るトークイベントを開催。「 "ニッポンのクリエイティブ" は世界にどう評価された?」というテーマに沿って、興味深いディスカッションが繰り広げられました。
▼ゲスト
■ 澤山陽平
500 Startups Japanマネージングパートナー。東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻修了。修士(工学) 。JP モルガンの投資銀行部門でTMTセクターの資金調達やM&Aアドバイザリー業務に携わった後、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にてIT セクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事。2015年、$35M (約38億円)規模のファンドである500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任。主な投資先は、SmartHR、Infostellar等。SXSWは6年連続参加。
■ 佐々木康晴
株式会社電通第4CRプランニング局長/デジタル・クリエーティブ・センター長/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻(坂村健研究室)を修了後、1995年電通入社。持ち前のデジタル知見を活かしデジタル新領域クリエーティブおよびイノベーション創造のリーダーを務めるかたわら、電通の海外グループ拠点とのコラボレーションによるグローバル対応任務も担う。カンヌ金賞、クリオグランプリ、D&ADイエローペンシル、OneShow金賞等、国内外の広告賞を多数受賞し、審査員経験や国際講演経験も多い。
■ コバヤシタケル
株式会社BIRDMAN CTO / Technical Director / Device Engineer。映像、音楽、WEB、システム制御、電子回路、デバイス、メカトロニクスと、ソフトウェアもハードウェアもmakeする両刀使いディベロッパー。15年のフリーランスを経て、2014年1月にI.C.E.加盟会社であるBIRDMANに入社。数々のイベントやコンテンツ、プロダクト開発に携わる。
▼モデレーター
■ 西村真里子
株式会社HEART CATCH 代表取締役。国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。長年にわたりSXSWを現地でウォッチしつづけている。
▼SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)について
1987年に音楽イベントとしてスタートして以来、毎年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開かれている、音楽、映像、テクノロジーの世界最大規模の祭典。さまざまな層のクリエイティブパーソンが集まって最先端のディスカッションが繰り広げられる。3月9日から18日まで10日間開催された2018年のSXSWの公式テーマは「Globally connected: we' re all in this together(グローバルに繋がった:みんな一緒にここにいる)」。スマホやAIなどの進化により、人間同士のみならず、人間とロボットも当たり前のように繋がる時代を象徴したものとなった。
それぞれがSXSWに参加する意義、関心ごととは?
知見豊富な4名が登壇するとあって、月末金曜の夜にも関わらず、イベント会場は超満員に。HEART CATCH・西村真里子さんがモデレーターとなり、まずは、ゲスト3名それぞれのSXSWとの出会いから、今年2018年のトレンド等について、質問が投げかけられました。
はじめに、2013年より毎年欠かさずSXSWに参加されている、500 Startups Japan・澤山陽平さんから。澤山さんは、当時、「世界で一番とがっていることをやっている人たちが集まるイベントがある」と聞いたことをきっかけに、プライベートでSXSWに参加したといいます。投資家目線で多くのスタートアップ企業を見てきた澤山さんの見解とはどんなものなのか、冒頭より会場の関心が高まります。
澤山:SXSWでは、さまざまなテーマに沿った最先端のトピックについて語られる、約1700のセッションが設けられているのですが、私はそのセッションを聴くために参加しています。スピーカーに質問したり、そこで出会った人たちとセッションについてあれこれ議論したりして過ごしています。
西村:今年のセッションのトレンドについて教えてください。
澤山:AIをファジーな領域へどのように適用していくのかという話や、#MeTooの流れもあり、ダイバーシティ領域についてのセッションが多く見られました。バイオテックな話は昨年より明らかに減少していて、脳や宇宙、ドローンなども、技術そのものというよりは社会にいかに実装していくかに焦点が当てられていましたね。
西村:澤山さんが個人的に面白かったものは何でしょうか?
澤山:元FBIサイバー部門長の政策スペシャルアドバイザーによるAI規制についてのセッションや、AIという予測不可能なものをどのように規制するかなどの話が印象的でした。また、SXSWでは公式のセッション以外にも、実はたくさんのシークレットセッションが開催されているんです。SNS上ではそういったセッションの情報のやりとりも行われていて。それを知ったのが今年の大きな収穫ですね。ますますSXSWのおもしろさを実感しました。
次にお話しいただいたのは、今年自社出展を行った、電通・佐々木康晴さん。ゲスト3名の中で2012年と一番古くからSXSWに参加されています。ニューヨークに駐在していた当時、開催地であるオースティンが近かったため参加したという佐々木さんですが、なんとそのデビューは公式セッションへの登壇だったといいます。
佐々木:行ってみたら、なぜか勝手にセッションが組まれていました(笑)。
西村:SXSWデビューがセッションとはすごい。なかなか貴重な経験だと思います。公式セッションに登壇する権利ってなかなか得られないですから。
佐々木:そういう意味では、ラッキーだったかもしれません。セッションと言えば、今年はトランプ大統領就任以降、不安を抱えるアメリカ市民の心を反映し、「社会問題をAIでどう解くのか?」というようなテーマのセッションが多かったですね。
西村:佐々木さんは、今年自社出展で参加されていますが、どのような展示だったのか教えてください。
佐々木:われわれのブースでは、未来のビジョンを示しつつ、「電通と一緒にそんな未来を作ってみませんか?」という提案を行いました。具体的には、FOOD、JUMP、TV、VOICEと4つの展示を行い、例えばFOODは「寿司テレポーテーション」と題し、iTunesで音を再生するように、人気寿司職人の味や、おばあちゃんの味をデータ化し100年後も再生出来たらおもしろいなあと。そんな「食べ物をデータ化・転送する」世界を表現しようと、今回はそのうちの再生部分を展示しました。
西村:広告関連の世界最大規模のイベントと言えば、カンヌライオンズがありますが、なぜカンヌではなく、SXSWに電通が出展したのかが気になるところですね。
佐々木:広告会社が広告だけやっていればいいなら、カンヌに行けば十分です。でももはやそういう時代じゃない。エージェンシーとして、いろいろなプレイヤーに会って次のステップに進みたいという想いがありました。
また、SXSWにはいわゆる「ギークな人々」が集まっているわけです。彼らが電通に興味を持って、一緒に仕事をしたいと思ってくれればという、リクルーティング的な意味合いもありましたね。今回の展示は、電通が海外の人たちと一緒に仕事に取り組む第一歩になれば、という位置づけでした。
セッション、リクルーティングと、それぞれに興味深い目的があるなか、今回クライアントの出展をクリエイティブの側面からサポートしたBIRDMAN・コバヤシタケル氏が話します。SIXPADで培ったEMS技術と最新テクノロジーを融合したトレーニングジム「SIXPAD STATION」を開発した株式会社MTGの出展では、どのような収穫があったのでしょうか。
コバヤシ:「SIXPAD STATION」は、通常1時間かかるトレーニングと同等の効果が15分で得られるというトレーニングジムです。今夏のオープン前に、利用者の反応を探るべく、テストマーケティング的な意味合いで出展しました。
西村:みなさんの反応はいかがでしたか?
コバヤシ:大盛況でした。外国人にとってEMS機器は「夜中にテレビで売っている通販製品」のイメージがあって、正直、胡散臭いもののようですが、実際に体験してもらうとイメージは激変したようす。体験後、溢れる想いを僕らに伝えてくれました。その熱量もあってブースは、会場の運営側に注意されるほど人だかりができていました。MTGさんも手ごたえを感じたと思います。
気になる、SXSW近年の動向
ゲストそれぞれの、SXSWでの関心ごとや今年の収穫が見えたところで、気になってくるのは、近年の動向について。そこで西村さんは、2013年から毎年参加されているという澤山さんに、「SXSWに行き続ける理由」を問いかけ、探っていきます。
澤山:理由はふたつあって、ひとつは、これだけアーリーアダプターというかイノベーターみたいな人が世界中から集まる場所はここしかないと思っているからです。ヘルシンキである起業家の祭典「スラッシュ」など、さまざまなテッククランチのイベントにも足を運んでいますが、大企業の存在が大きかったり、逆にスタートアップ企業しかなかったり、どれも偏っているんですね。一方、SXSWは、起業家もいればVCもいて幅広い層がいる。参加者間で、ポジティブで盛んなコミュニケーションがあるのも魅力です。
もうひとつ、最近世の中ではバイオに関する話題がトレンドですが、SXSWではすでに5~6年も前に注目されていました。そんなニッチな領域でのセッションやミートアップがあるのもSXSWならではです。
西村:2007年にはTwitter、2011年にはAirbnb、2012年にはPinterestがSXSW内のアワードを受賞し一躍有名になるなど、2013年頃のSXSWは、まだまだスタートアップ企業を支援する場という面が強かったように思いますが、最近はその様子が変わりつつあります。同時に、SXSWが前より元気がなくなったとも言われますが、その点はいかがでしょうか?
澤山:確かに2015~2016年頃に一旦元気がなくなって、また最近盛り返してきた気がします。それまでテック押しだったのが、たとえばデザイン系のクリエイティブなど、いろいろな人を上手に巻き込むようになってきたことが、その理由のひとつではないでしょうか。
あと、街をあげてSXSWをもっと盛り上げていこう、大きなプラットフォームにしていこう、とする動きが出てきたように思います。わかりやすいところでは、新しい建物がものすごく増えている。どんどん街が便利になっているし、どんどん大きなことができるようになっている印象です。実際オースティンは、シリコンバレーならぬ「シリコンヒル」と呼ばれ、人の流入が年々増えています。
日本のネガティブとポジティブ
そんな話が繰り広げられるなか、今回のテーマ「 "ニッポンのクリエイティブ" は世界にどう評価された?」の答えを導き出すため、西村さんは徐々に核心に迫っていきます。
西村:SXSW2018での「日本の存在感」はどうでしたか?
コバヤシ:私はずっとトレードショーのコンベンションセンターにしかいなかったのですが、日本のブースだけ異常に盛り上がっていた印象を受けました。他の国と比較して、見せ方も面白く、わかりやすく展示がされていたように思いましたね。
佐々木:私は逆にネガティブな印象で、日本はちょっとずれている、と感じました。海外の方は、普段から他国と交流しているので一貫してビジネスモードで挑んでいるわけです。一方、日本の意識は「文化祭モード」。「英語はできません。プレゼンしたいだけ」というスタンスなんです。
西村:もう一歩踏み込んで、ビジネスパートナーを見つけるという姿勢で挑んでいれば、日本ってかっこいい! ってもっと思われそうなのに、もったいないですよね。
澤山:確かにおっしゃるとおりですが、それ以前の段階で、日本が存在感を発揮していた事実については、忘れてはいけないと思います。2013年から東京大学が関わるスタートアップやプロジェクトチームをSXSWに派遣するプログラム「Todai to Texas」が行われていますが、その年に東大の「OpenPool」というプロダクトが登場し、日本っていい意味で「ヤバイ!」というイメージがSXSWで広がりました。それを受けて、個人レベルではなく、国レベルでのブースが盛り上がっていった。つまり、日本がうまくトレードショーを使っているから、ほかの国もそれを見てがんばろうという流れを作ったのは間違いないと思います。
ただ、セッション領域においては、物足りないですね。セッションでパネルスピーカーに選ばれるためには、ダイバーシティが重視されますが、そもそも英語ができない日本人はとてもハードルが高い。約1700あるセッションのうち、パナソニックやフジテレビなど日本が登壇しているのはたった3つだけなんです。
西村:もっと日本からもセッションに挑戦してくれる人が増えてほしいですね。
日本のクリエイターの役割とは
それぞれが解説する日本の評価に、会場がより真剣な空気に包まれるなか、日本のスタートアップとクリエイターが組むなどすれば、もっと可能性が広がる余地があるように思う、と西村さんは指摘します。今年のSXSWを踏まえ、今後クリエイターはどうあるべきか、また期待することについて、切り込んでいきます。
澤山:起業家って10年後、20年後の未来のことをよく考えています。いうなれば、常に2歩先3歩先を考えているので、それゆえに理解不能に思われる節もあります。そんな起業家の話を分かりやすく、かみ砕いて伝えるのがクリエイティブの役割だと思います。そういった意味で、クリエイターの力がどんどん求められていると感じます。
さらに、両者の対話がもっと重視される時代になっているように思います。単に「作って出す」だけではなく、相互間で繰り返しインタラクションをやってブラッシュアップしていくことが重要ではないでしょうか。
西村:ソニーさんもパナソニックさんも、商品になる前のものをSXSWに出して、対話をしてさらに良いものにしようとしています。完成品を作り上げてもってくるのではなくて、コメントを貰えるようなものを提示するのが大切なのかもしれませんね。
じわじわと世界へ広がる日本のクリエイティブ
西村:最後に、今回の主題「 "ニッポンのクリエイティブ" は世界にどう評価された?」という点についてどう思われますか?
澤山:世界のなかでも、日本=「特殊なカルチャーを持っている国」という認識は、みんな前提として持っています。それに、今年のSXSWに来た外国人のうち一番多いのが日本人なんですね。日本からたくさんの人が集まって、さまざまな人がバラエティに富んだ発信をしているなかで、まだまだ日本にはおもしろいものがある──前提を超えたそんな認識が、じわじわ広がっている気がします。
コバヤシ:SXSWにおいて、日本ってまだ全然馴染んでいなくて、浮いている存在だと思います。でも、日本は日本のままで、このまま馴染んでほしくない気もしますね。とはいえ、世界とコミュニケーションは取っていった方がいい。そのような点で、まだまだ日本は評価される段階じゃない。もっとレベルアップできるのではないでしょうか。
佐々木:日本のクリエイティブは特殊と思われつつも、一緒に何かおもしろいことができるのかもという期待感をお互いが持てているのではないかと思います。コミュニケーションを続けていくことで、もっとその可能性は広がる気がします。今回のSXSWでつながったコネクションを広げて、さらにコミュニケーションを増やして、どんどん新しいことに挑戦していきたいですね。
この後、登壇者とこの日参加した101名の人々の懇親会が行われ、SXSWについてさまざまな意見交換が行われました。第7回ICLは、今後、日本がSXSWに参加することで、クリエイティブのさらなる可能性の広がりが見込めることを感じさせるイベントとなりました。
会場協力:渋谷100BANCH