2023.01.09 人材育成委員会 EVENT REPORT
クリエイティブ人材育成員会としてコロナ禍以降では初となるリアル開催(オンラインとのハイブリッド)イベントを2022年12月に開催しました。感染リスクを低減させる対策をしつつ集うのは久しぶりで、加盟社訪問のこのイベントは「I.C.E. Meet & Greet」と名付けられ再スタートしました。記念すべき第1回は株式会社ワンパクのオフィスに訪問、株式会社ナディアとの2社が登壇し、会社紹介から制作事例、独自の取り組み等を発表、その後は懇親会で交流を深めました。

I.C.E. Meet & Greetとは

冒頭では、今期より始動したイベント「I.C.E. Meet & Greet」について遠崎理事(ザ・ストリッパーズ株式会社)より紹介がありました。ここ3年は社会情勢を踏まえ、I.C.E.のイベントもオンライン開催としていましたが、行動制限も一定程度緩和されてきた今期は、感染リスクを低減させる方策を講じながらリアル開催する方針で企画しています。今期は、加盟会社を訪問し交流することで、スタッフ間の情報共有や親睦を深める機会「I.C.E. Meet & Greet」を新たにスタートして、力を入れていきます。加盟社も増加し、所属する皆様お一人おひとりによりご活用いただけるような業界団体として活動していきます。

遠崎:「このI.C.E.の会社訪問を機に交流したスタッフが会社を超えて作品づくりをするなど、親睦を深められたからこその動きが、コロナ禍以前はありました。加盟社が2倍近くに増えたいま、改めてリアルでの出会いの場をつくっていきたいと思います」

会場となったのは、代々木の閑静な住宅街に建つワンパクのオフィス地下にあるフリースペース。普段はここで、クライアントとのワークショップや打ち合わせがおこなわれています。

本質的な課題解決のための共創を(ワンパク)

ワンパク ディレクターの広瀬さんによる会社紹介と制作事例のプレゼンテーションから「I.C.E. Meet & Greet」がスタート。創業15年目になるワンパクは現在東京と大阪の2拠点にオフィスを構える、デジタル領域を核をとしたクリエイティブエージェンシーです。企業のコミュニケーション戦略から多岐に渡るクリエイティブ制作、システム開発、メディアの運営等と領域は多岐に渡りますが、インタラクティブであること、本質的な課題解決となることへの熱心さが発表から感じとれました。

広瀬:「ワンパクは『Move Forward with You』と社訓を掲げる、クライアントとともに考え、“ものづくり”をおこないビジネス上の課題を解決するパートナーです。私たちの“ものづくり”は、クライアントにあるコミュニケーションの本質的な課題を見出すところを根源としています」

ワンパクの大きな特徴のひとつは、クライアントとのワークショップが綿密であること、その真意は「クリエイティブプロジェクトの進行は『共創』を重要視すべき」という考えがあることが伺えました。

独自開発のシステム『Tamago CMS』(ワンパク)

ここからは、制作事例を基にワンパクの取り組みが紹介されていきました。事例として挙げられたのはパナソニックグループのニュースサイト『Panasonic Newsroom 』のリニューアルです。情報発信のためのプラットフォームとして進化させるべく、「インフラ・システムの統合」「簡略化によるコスト削減および業務効率化」をいかに実現させていったのか説明されていきます。

広瀬:「以前のWebサイトは、CMSが分かれているなど裏側のシステム自体も使い勝手も複雑な仕様になっていました。そこを抜本的に変え、ひとつのCMSに統合して管理をしやすくしています。そこで導入したのがワンパク独自に開発している『Tamago CMS』です」

『Tamago CMS』とは、ひとつのCMSでサイト運営に関するすべての要素を一元管理できるシステム。複数サイトやファイル、ユーザーの管理はもちろん、作業や進捗管理といったワークフローが組めることが特徴だと、広瀬さんは続けます。例えば誰かがファイルを使っているときはロックがかかりデータの先祖帰りを阻止するなど、Web専門知識がない初心者でも簡易に使用でき、企業規模が大きくても各組織体で分断されずに安心して情報発信ができるといった、起こりがちな心配ごとに対応した独自システムであることが説明されました。今回の「I.C.E. Meet & Greet」では特別に、実際にデモ画面を表示しながら、具体的な使い方や、使い勝手の良さが紹介されていきました。

『Tamago CMS』とデザイン(ワンパク)

その後、アートディレクターの桑原さんより、同事例を基にデザインに関して説明がありました。

桑原:「パナソニックのブランド名は “パン・ソニック” を語源としており、”音をあまねく広げていく”という意味であることからきています。そこから今回、情報を広げていくというサイトの目的とシンクロさせたコンセプトでデザインしています。波を記号化し、波形が広がっていくアニメーションをぜひご覧いただきたいです。また、中身が引き立つようにクリーンなイメージのテンプレートは、ブロックモジュールを使用することでデザイン性が高くも記事の内容によって自由にデザインできるようになっています」

『Tamago CMS』のデザイン面での特徴である『ブロックモジュール』についても解説があり、一般的に使われているソフトウェアでは叶わなかった入り組んだデザインやクオリティの担保ができる旨を、桑原さんは解説します。
また、既存の記事数が大量にある場合、新しいシステムへの移行は苦戦を強いられますが、『Tamago CMS』のブロックモジュールを使うことで、移行もスムーズにできるそうです。

CDNフレンドリーな設計(ワンパク)

その後、 テクニカルディレクターの春菜さんより「CDNフレンドリーな設計」について語られました。国内のみならずグローバル向けコンテンツも運用する規模の大きな企業ではサイバー攻撃への対策としてCDNの利用は必須と春菜さんは言います。

春菜:「CDNを利用していないと、サーバから遠いユーザーはコンテンツを表示するのに長時間かかってしまいます。CDNを使うことで、世界各国のエッジサーバーにコンテンツがコピーされ、近くのエッジサーバーから得ることができます。これにより、サーバの負荷軽減となりエラーも軽減、サイバー攻撃にも有効となります」

CDN利用のメリットおよびデメリットと対策、適切なキャッシュクリアの方策についても詳細に語られ、短時間のなか学びの多いプレゼンテーションとなりました。

その後、会場やオンライン参加者からの質疑応答がおこなわれ、Tamago CMSの具体的な運用方法やクライアントとの調整方法や円滑に進める進行のポイントなど、クローズド空間ならではの熱い質問が飛び交いました。

人の感性を豊かに育むデザインを(ナディア)

続いては、ナディアよりディレクターの根本さんが登壇し、会社概要や制作事例について発表がありました。情報行動のデザインで受賞歴もある根本さんは、新卒2年目と思えないような堂々としたプレゼンテーションをしてくれました。
ナディアは札幌で誕生し創業18年、現在は東京・札幌・京都と3拠点で110名のスタッフが働くクリエイティブスタジオです。また、ソフトウェアの品質保証およびテストを専門とするプライム市場上場企業・SHIFTグループの一員でもありますが今回は割愛されました。アワードの受賞歴も多数、リッチなクリエイティブを生み出すナディアの発表に、参加者の期待は膨らみます。
根本:「ナディアのブランドタグラインは『Design for everyone』。すべての人・社会のあらゆる場所に対して、デザインの力で課題を解決し、より良い未来にしていくことを目的とした価値提供をおこなっています。さらに『Emotions that give power to creatives』=『情動こそ創造の源泉』をフィロソフィーとし、コンテンツの枠に限らず人を楽しませることができる体験設計も得意としています。ブランドエクスペリエンスデザインとエンターテインメントエクスペリエンスデザイン、2つのソリューションを有しています」
ここからは各種制作事例の紹介となりました。 
主力となるWebサイト制作では、2020年のWebグランプリで優秀賞を獲得した読売新聞社の日本美を守り伝える『紡ぐプロジェクト 』–皇室の至宝・国宝プロジェクト–事業のポータルサイト、同じくWebグランプリで2022年の今年受賞したばかりの住商インテリアインターナショナルのコーポレートサイト 、プロ野球リーグの公式サイトリニューアル、テレビやラジオを中心としたメディアマーケティングリサーチの大手企業のコーポレートサイトリニューアル、サイバーセキュリティ関連製品を取り扱うリーディングカンパニーのブランドサイトリニューアル、大手酒造メーカーのコーポレートサイトリニューアルなどを紹介。
IMC領域では、ブランドマスコットを使用した配信・WEBコミュニケーション施策や、少女漫画のベストセラー作品を起用しヒットしたコンビニエンスストアにおけるスマホくじキャンペーンのクリエイティブ制作等、カスタマーエクスペリエンスがより重要な施作について紹介がありました。

エンターテインメント領域では、映像表現も得意とするナディアのアニメーションの技が光る施作を多数解説。様々な日本のアニメとコラボレーションした施作、世界に誇るゲームタイトルの施作等、各種サイト制作やプロモーションムービー作成について紹介があり、ここI.C.E.でしか聞けない事例もありました。

ブランドエクスペリエンス領域では、パナソニックコネクトのカスタマーエクスペリエンスセンターの映像制作や施設全体のリニューアル、オンラインイベント Webサイト制作、1日限定の有料イベントながら1万5000人を超える集客を達成した読売新聞社のウォータープロジェクションマッピングとアート体験『hokusai & TOKYO 水辺を彩る江戸祭』のコンテンツ企画・制作、メガバンクの新社会人向け口座開設プロモーションにおける、プロジェクションマッピング体験のプランニング、クリエイティブディレクション、開発、制作、カフェのブランドアイデンティティ開発などが紹介されました。

根本:「汐留にあるパナソニックコネクトのカスタマーエクスペリエンスセンターでは、ウェルカムスペース、プレゼンエリア、エキシビションエリアにおける回遊率の向上、体験の向上を目指した取り組みをおこないました」

事例の紹介が終わると、質疑応答へと進みました。「この事例では、各関連団体のコンセンサスをどのようにとっているのか?」「社内でのチーム作りはどのようにおこなわれているのか?」「幅広くクリエイティブを行なっているが、経営における売り上げのボリュームゾーンはどこなのか?」など、ここでも現場スタッフ同士らしい質問が相次ぎました。

最後に、ワンパクの代表取締役でもあるI.C.E.の阿部淳也理事長から加盟社の方々にメッセージがありました。

阿部:「クローズドの空間でしか言えない・聞けない話をすることができる。それがI.C.E.の魅力でもあります。懇親会も用意しておりますので、ぜひ次回はオンラインではなく実際に足を運んでください」

会場に集まった参加者たちは、そのまま懇親会へ。フィンガーフードをつまみながら、現場を知る者同士だから盛り上がれる話、これからの展望、今だから語れる昔話、サッカーW杯の話など、終始和やかなひとときとなりました。フェイスtoフェイスだからこそ生まれる信頼感や結束感は、オンラインでは味わえないものです。次回のMeet & Greetで、みなさんとお会いできることを楽しみにしております。
撮影/西田優太|Yuta Nishida
取材・文/富山英三郎|Eizaburo Tomiyama