『U35 Creative & Communication Award』の応募締切(2023年10月29日(日)23:59)を目前に、広告主側と制作会社側それぞれの現場で活躍する若手が登壇し、より良いアウトプットを生み出すための工夫や考え方についてトークセッションを開催しました。
※『U35 Creative & Communication Award』は、さまざまな企画の仕事に携わる35歳以下のビジネスパーソンを対象に、挑戦と経験の機会を提供することを目的として開催する、クリエイティブアワードです。協力企業様より実際の事業に即した具体的な課題をご提示いただき、応募者は企画書形式でエントリー、コミュニケーション課題を解決するアイデアとクリエイティブを競います。詳細は特設ページよりご確認ください。
https://dmi.jaa.or.jp/general-browse/view/3613
登壇メンバー
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会デジタルマーケティング研究機構(以下、DMI)
花王株式会社:廣澤祐氏
カゴメ株式会社:細川和紀氏
株式会社サンギ:竹内早映子氏
一般社団法人 Interactive Communication Experts(以下、I.C.E. / 呼称:アイス)
株式会社D2C ID:星田恵美令氏
株式会社ワンパク:山地夏菜子氏
株式会社ガジェログ:瀧田凱斗氏
【トークセッションのハイライト】
クリエイティブワーク / クライアントワークにおける苦悩は?現場で起こりがちな困りごととは?
▼DLはこちらから
https://dmi.jaa.or.jp/general-file/download/1262
後半はクリエイティブワークの見積の妥当性について意見が交わされました。
細川氏:パートナーさんから「この業務はいくらです」と出てきた時に、その妥当性を社内で説明するのは難しいなというのはちょっと思っていますね。その人が積んできた経験や能力といったところを加味しての工数になっていると思うんですけど、それをわかりやすく社内に説明して理解してもらうのは悩むシーンが多いかなと。
瀧田氏:(デザイナーとして)最終案を出すまでにリサーチをして複数案考えてということをしていますが、それを自分たちが言語化できていないというのもあると思っています。
廣澤氏:例えばロゴ制作であれば、単に最終版のロゴを提案するのではなく、そのロゴがどういうロジックに基づいて考案され、そのためにどれくらいの稼働がかかって…、といったデザイナー側の説明責任も重要ではないかということですね。
瀧田氏:そうですね。僕ら自身がディレクターにもっと明確に説明できるようになる必要があると最近課題に感じています。
廣澤氏から広告主側の視点で次のような意見が出ていたのも印象的でした。
廣澤氏:僕ら広告主側は制作会社のワークフローの詳細までは理解できていません。その結果、出てきた見積もりに対して、例えばA社さんは100万円、B社は150万円とした時に、50万円の違いは分からないけど100万円の方が安いからA社に出しちゃおうみたいなことが起こり得ると思います。しかし、あるべき姿はこういうことではないんだろうなと思うんですよね。この50万円の差ってなんなんだろう?ということを、広告主側もちゃんと知りたい、理解したいと思うことが大切なのかもしれません。
コロナ以前とコロナ以後、クリエイティブワークの現場はどう変わった?
コミュニケーションの仕方がリアルからオンラインに変わったことで制作スピードが上がった一方、関係性が希薄になってきている面もあるようです。
星田氏:制作の現場ってセオリーとか “やり方” がいろんなところに転がっていると思うんですけど、横にいる先輩に張りついて盗む、分からなかったらグイグイ聞きにいく、みたいなことがコロナ以後できなくなっていると思います。
一方で代理店や広告主のみなさんに気軽にオンラインでミーティングしましょうと言いやすくなりました。「30分くらい時間いただいて、画面見せながらだとわかりやすいかもです!」とかは言いやすくなったと思います。
細川氏:制作のスピードは上がってきていると思います。 作ってから持っていって議論してまた持って帰るみたいなことが減り、中間のものを見ながら一緒に話すとか、出てきたものをその場で赤入れして戻すみたいなことができるようになっていると思いますね。
選ぶパートナーさんの幅も広がっているかもしれないです。会わなくてもオンライン上でやりとりができるようになったので、これまでは会う前提のパートナーさんを探していたけど、そこは関係なしに幅を広げている部分は変わってきているところかなと思います。
竹内氏:コロナ収束後もずっとオンラインの会社さんとリアルに戻ってきてくれる会社さんとでばらつきがでていますね。「ちょっとLPのこの段階をみてください」とかオンラインでむしろ良いですが、ガッツリとした話は対面でした方がいいのかな、と個人的には思います。でも、対面で来てくれって少し言いにくいですね。
廣澤氏:コミュニケーションの粘着性みたいなのが高くなると、惰性で取引が続くこともあると思います。しかし、コミュニケーションツールがデジタル化していけばしていくほど、繋がりやすさの反面、関係性の希薄さも増している。結果、「今回は条件合わなそうなので案件は一旦クローズで」と言いやすくなっている可能性もありますね。
より良いアウトプットを生み出すために、あるべき協働のカタチとは? 広告主と制作会社、相互理解をどのように深めるべきか?
広告主と制作会社が一つのチームになって共体験を積み上げていくという点はみなさん大切にしているところでした。
細田氏:共体験というのはすごく大切だと思っていて、「あの時めちゃくちゃ大変だったけど一緒に頑張ったよね」みたいな話は、長い関係を築いていく上で大切だと思います。オンラインで便利にはなってきてるんですけど関係性が希薄になってきている部分もあるので、その分、時間や場を一緒に過ごすというのは意識してますし、大切にしたいと思っています。
竹内氏:確かに、一緒に苦難を乗り越えるとその後のコミュニケーションはとりやすいと思います。特に、「若手同士である程度のところまで持っていくぞ!」という場面は意外と多くて、一緒に頑張るというスタンスが個人的には好きですね。
星田氏:直接やりとりしていた広告主のみなさんから手書きの年賀状が届いた時はとても嬉しかったですね。そういう生のコミュニケーションができると、チームとしてお互いいいもの作ろう!という雰囲気になりやすいですよね。
また、星田氏からは相互理解の深め方について次のような意見もでました。
星田氏:同じ日本語を喋っていても、所属が違えば”言語が違う”と思うようにしています。同じ単語だとしても、それに対する意味合いとか価値観がみんなそれぞれ違っているんじゃないかと。例えば形容詞の「美しい」とか「綺麗」とか、そういうものが出た時にそれが何を指しているのか、どういうふうな情景なのか、丁寧に聞くようにしています。自分自身も、目的や意味合いを話す時は感性的な言葉を使わないように気をつけています。
廣澤氏:化粧品の世界って「美しい」とかよく使ったりしますが、「貴社の考えている美しいって何ですか?」と踏み込んで聞かれると、この人はブランドをちゃんと理解してくれようとしてるんじゃないかと受けとめる気がしました。
広告主と制作会社の若手、現場を担う世代の成長に必要なものは?若手は機会をどのようにして掴み、活かすのか?
竹内氏:昨今は自分でSNSで発信して個人で仕事を取って副業しやすいみたいなところもあると思います。会社で回ってこないタイプの案件を自分でとれるように頑張るとか、まだ早いと思わずにこういうものに応募してみるなど…笑(『U35 Creative & Communication Award』のチラシを掲げる)
実際、コンペで通らなくてもその案を自分の提案資料に入れてくる方も全然いますし、こちらも「そういうアウトプットができる方なんだ」と思えます。
廣澤氏:プロモーションしてくれてありがとうございます。笑
制作会社の若手という観点ではどうですか?
山地氏:自分で仕事を見つける力というのが大切なのかなと思います。まだ任せてもらえる範囲が狭い中で、自分は何ができるんだろう、これならできるかも、というものをよりたくさん見つけて能動的に動いて成長機会を自分で作るということが大切だと思います。
星田氏:自分の弱みはわかりやすいんですけど、強みって意外と見つけづらくて。普段の自分の領域からちょっとずれたところにいくと「あなたの強みはそこだよ」って教えてくれる人がいたりする。そういう人を自分から見つけにいくという行動が大切なんじゃないかなと思います。
瀧田氏:制作会社の若手って2,3年目になると自走力がついてコンフォートゾーンに入っちゃってるみたいなところがあるので、外部で刺激を受けてストレスのかかった状態で仕事をする、社外の人と関わってコミュニケーションをとって学ぶみたいなことが成長スピードを格段に上げてくれると思いました
どーなる?!クリエイティブの未来 クリエイティブのトレンド変化に若手はどう向きあうか?
最後は、SNS・インフルエンサーの活用など、コミュニケーションの手段が増えて複雑化していくクリエイティブ業界を現場の若手はどうみているのかについて意見を交わしました。
細川氏:改めて大切にしなきゃいけないのは企業がこれまでどういう歴史を歩んできていて、いま世の中に何を伝えようとしているのか?というのはベースとして大切だと思っています。認知をとるのは大切ですけど、その裏で何を伝えるのか?何をお客様の中に残していくのか?というのはすごく大切だと思うので、そういった部分を重視しながらパートナーさんと一緒
にお仕事をしていければなと思っています。
ちょっとみなさんにききたいことあるんですけどいいですか?昨日今日やってたアドテックの中でも生成AIの話ってよく出てきていて、制作の現場はその辺どうみてますか?
山地氏:人対人だからできることがあると思っていて、技術が発達することで業務がより楽になったりとかプラスになることはたくさんあると思うんですけど、それと付き合いながらもクライアント様と制作会社がきちんと会話をして作る方が素敵なものができると思っています。
だけど、生成AI自体はおもしろい技術だなとは思っていて、実際今回イベントページで使用している私のプロフィールは、内容が薄くてあまりおもしろくなかったので、チャットGPTを使ってユニークなプロフィールに編集してもらいました。 笑
瀧田氏:僕は実際にツールを使って制作する中で、俺の仕事なくなるじゃん!って思うほどクオリティの高いイラストが生成されるんですよ。ただ、そこでツールと張り合うことに学習コストを使うより、デザイナーも上流に入っていって企画や提案ができたり、そういった方向に力を入れていきたいと思っているので、もっと喋りの勉強をしようと思っています。笑
星田氏:わたしはAIそのものは本当におもしろいなーと思っていて。まだAIに意思はなく、使って選ぶのは常に人間なので仕事が奪われることはまだないんじゃないかなと思っています。デザイナーさんとかも心配しているかもしれないけど、アウトプットを言語化できたり、良し悪しを考えて次に昇華するというのは人間にしかできないので。AIの発展はポジティブなんじゃないかなと思います。
廣澤氏:入山章栄先生という経営学の先生がいらっしゃるんですが、彼が最近よく言っているのは「生成AIで間違いなく世の中が変わるんだけど、これからの時代は何を言うかではなく誰が言うか」がすごく大切になってくるから、誰がを担保する理由が大切になってきますよね」と。誰が作ったというのが価値になる時代というのはあって、なぜそこに価値があるのかというとその人が積み上げてきた経験値とか実績とか自身の思考を世の中に発信しているからとか、そういったことに対して共感する人が「これが欲しい」と感じるのはあると思います。
小手先だけでは負けるかもしれないというのはその通りで、その先に、自分とは何者なのか?みたいな哲学的な世界にクリエイティブも入っていく可能性がなきにしもあらずだなというのは思うところです。
現場感のあるセッションでした!
相互理解のセッションでも議論されていた通り、より良いクリエイティブワークを続けていくためには広告主側と制作会社側との共体験の積み上げ、関係性の構築が重要だと思います。今回のように、同じ時間、同じ場でお互いの考えを共有し合える場を今後も開催していきたいと思います。
取材・文/U35 C&CA 事務局