カンヌライオンズの開催から1ヶ月弱でおこなわれたこのトークイベントには、現場で活躍するクリエイターやマネジメント層、媒体関係者、大学の広告研究団体と、多方面から参加者が集いました。
世界最大級のクリエイティビティ・フェスティバルは、タフ&エキサイティング
参加者のなかには、カンヌライオンズの勉強会に初参加という方もいらしたため、冒頭では、河尻亨一氏よりカンヌライオンズの概要についてお話しいただきました。
河尻氏:「世界最大級のクリエイティビティ・フェスティバル、カンヌライオンズは、世界最高峰が集うゴージャスな “レッドカーペット” の世界です。30部門あるアワード、公式だけでも約150プログラムあるセミナー、そして飲みながら仕事の話も飛び交うネットワーキングパーティーの“3層構造”になっており、たくさんの催しで忙しい毎日となります。参加者は5日間、朝から晩まで勉強したり受賞作を見たりと、タフ&エキサイティング。世界中からかき集められた最高峰のクリエイティブと、それにまつわる刺激的な学びと交流の機会となりますので、チャンスがあればぜひ体験していただきたいと思います」
「アワードの各部門は細かくカテゴライズされ、一見複雑に思えますが、点と点を結んでいくと傾向が見えてくる」と河尻氏は語ります。
昨年の話題「AIを使ったクリエイティブ」が2024年は激減。「パーパス」の行方はいかに?
はじめに紹介されたのは、保護犬の里親募集に取り組むペディグリーのキャンペーンで、スマホで撮影した保護犬の画像から「AI」を用いてモデル犬のようなポージングをしたハイクオリティ画像を生成、街中のサイネージ広告に使用し保護犬と里親をマッチングさせるという施策です。
【ADOPTABLE. by PEDIGREE】(Outdoor部門グランプリ)
【RENAULT - CARS TO WORK】 (SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS部門グランプリ)
河尻氏:「どちらも、本来なら行政がやるべき課題ともいえる、振り切った取り組みです。これらの事例のように、『パーパス(企業の社会的な存在意義)』を表現した広告はここ10年ほど評価され続けていますが、一方で『パーパス』がグランプリの7~8割を占めていた一昨年に比較し、今年は5割程度まで減少しています。それと、昨年はグランプリの4割ほどを占めていた『AIを使ったクリエイティブ』が今年のグランプリにはほぼ見当たらない点も、注目しておくべき今年の傾向です」
二作品の「AI」や「パーパス」の素晴らしさを伝えながらも、河尻氏はこのように指摘しました。
広告業界にコメディが戻ってきた!
河尻氏:「世界的に “パーパス” や “ソーシャルグッド” 疲れが見えるようになってきました。その代わりにコメディが戻ってきた(Comedy is Back)と言われています」
コメディの事例として紹介されたのは、カレッジフットボールの大会に登場した「ポップタルト(米国で人気の朝食用スナック)」のマスコットを使った広告です。マスコットはダンスなどで会場を盛り上げた後、巨大トースターに滑り込み、優勝チームに食べられてしまいます。マスコットが身を挺して勝利を祝う映像はXでミーム化され、全米の話題を集めたそうです。若い世代にも親しまれるスナック菓子を目指しバズったこの施策は、スポンサードコンテンツを嫌うZ世代の価値観も追い風になったのではないかと、河尻氏は語りました。
POP-TARTS【THE FIRST EDIBLE MASCOT】(BRAND EXPERIENCE & ACTIVATION部門グランプリ)
DoorDash【DOORDASH-ALL-THE-ADS】(TITANIUM部門グランプリ)
カンヌで大絶賛された注目作品
続いて登壇したのは、株式会社キラメキの石井義樹氏です。
まずは、今年カンヌで大絶賛されたという、オランダの通信会社・オレンジによる女子サッカーの人気向上に寄与した広告を紹介しました。VFXを使い、女子サッカー選手の名プレイを男子選手に置き換えたディープフェイク動画を作成、最後にタネ明かしされるという構成です。ジェンダー問題を絡めながら女子サッカーのエンターテインメント性を証明し、エンターテインメントとはジェンダーによって境界されるものではないことを示した広告です。
石井氏:「この作品の素晴らしさは、ジェンダー問題を悲観的に表現せず、女子サッカーがエンターテインメントの最高峰に位置することを、人々の熱狂と興奮のなかで明らかにした点です。華麗で激しい見事なプレイに人々は魅了され、エンターテインメントをさらに愛することができました」
河尻氏:「パーパスとエンターテインメント性を両立できた作品で、個人的に今年の頂点です。男子選手に置き換えられた動画の前半部分だけをXで先に公開し、段階的にタネ明かしをしたのも、話題をさらった仕掛けづくりの面白い点でした」
ORANGE【WOMENʼS FOOTBALL】(FILM部門グランプリ / ENTERTAINMENT LIONS FOR SPORTS部門グランプリ)
「ユーモアの活用 (Use of Humour)」追加の背景
石井氏のプレゼンテーションでは、河尻氏が示した今年の傾向「パーパス vs ユーモア」の話を引き継ぎ、「ユーモア」に近年どのような流れがあるかを解説していきました。
石井氏:「ユーモアが注目されているのは昨年からの流れでもあり、今年から各部門のサブカテゴリーに “ユーモアの活用 (Use of Humour)” という項目も生まれました。運営側もユーモアを尊重しようとしているわけです。また、近年では、FILMとFILM CRAFTにおいてはストーリーテリングが大事だよねという話があります」
そう語って紹介したのは「ユーモア+ストーリーテリング」の合体で魅せた、2023年にFILM部門グランプリを受賞したAppleの「Relax, it's iPhone – R.I.P. Leon」と、フランスの有料民間テレビ局CANAL+の「PAPA?」でした。
続けて、石井氏は、タイは「ユーモア」広告が昔から強いと語ります。タイの不動産会社のCM「Sammakorn Not Sanpakorn」と、カード会社であるKrungsri FirstChoice のCM「What The Fast」、今回FILM部門でゴールドを獲得したこの二作品についても石井氏から解説されました。
【SAMMAKORN NOT SANPAKORN】 (FILM部門 ゴールド受賞)
Krungsri FirstChoice【WHAT THE FAST!】 (FILM部門 ゴールド受賞)
受け手の心を掴み体験化するためのクリエイティブ・クオリティ
小川氏:「突然ですが、病院でMRI検査を受けたことがある方はいらっしゃいますか? 実は、私は狭いところが苦手でMRIが好きではないため、受賞作品の中でこれを見たときに感動しました」
そう語って紹介したのが、MRI装置を提供するヘルスケアサービスプロバイダーのSIEMENS HEALTHINEERSが作成した「MAGNETIC STORIES」です。MRI内部で鳴る機械音は、とくに子どもたちにとって苦痛を与えるものです。同社は、MRIを騒々しく怖い体験とならぬよう、ベストセラー作家に依頼し、発せられるすべての音に意味をもたせ、ストーリーに取り入れたオーディオブックを作成しました。例えばある音は、ロボットの効果音になるなど、子どもたちが物語を楽しみながらMRI検査が受けられるようにつくられているそうです。小児がんで闘病中の子どもたちなどが、必要な検査を楽しく受けることができる、顧客体験の素晴らしさについて、小川氏は力説しました。
【MAGNETIC STORIES】SIEMENS HEALTHINEERS (PHARMA部門グランプリ他)
ORENGE【A PIECE OF ME】 (CREATIVE STRATEGY部門グランプリ、他)
小売店へのエンパワーメントが評価されたB to B領域
「Thanks For Coke-Creating」は、世界中にある小さな個人商店の店先や壁に描かれた、オリジナルの手描きコカ・コーラ ロゴに着目したプロジェクトです。非公式ロゴに大企業が積極的に関与したことが話題になり、カンヌライオンズでは、ゴールドを3つとシルバーを4つ獲得しました。
小川氏:「このプロジェクトでは、お店独自のグラフィティをパッケージにするサービスなどもおこなっており、小売店をエンパワーメントしています。このように、コロナでシリアスな状況になったとき、自分たちを支えてくれている市場をサポートする施策がB to B領域で目立ちました。この他、歴史あるアイリッシュ・パブをAR(拡張現実)技術を使ってミュージアムにしてしまおうという、ハイネケンの「PUB MUSEUMS」もぜひご覧いただきたいです」
Coca-Cola【Thanks For Coke-Creating】(Creative B2B部門ゴールド、他)
HEINZ【IT HAS TO BE HEINZ】(Creative Effectiveness部門グランプリ、他)
アイデアとは既存の要素の、新しい組み合わせ
X Box【THE EVERYDAY TACTION】 (ENTERTAINMENT LIONS FOR GAMING)
小川氏は、2020年に受賞したバーガーキング「STEVENAGE CHALLENGE」など、過去受賞作品も数点紹介しながら、「THE EVERYDAY TACTICIAN」は過去作品のアイデアの掛け合わせがされていると述べ、受賞作品を分析することの大切さを熱論しました。
小川氏:「真摯に熱意を持ってカンヌを追いかけ、研究し続けることは、クリエイティブ業界のプレイヤーとして、クライアントはもちろん、あらゆる企業や社会に最良の課題解決の結果をお渡しするために不可欠なトレーニングだと私は思います。今後もカンヌを追いかけていきます」
最後に、カンヌライオンズに着目し続けることの意義を小川氏はそう語り、質疑応答および懇親会をもって、I.C.E. CREATIVE LOUNGE 第11回『カンヌライオンズ2024の最新トレンドを読み解く』は終了しました。
取材・文/富山英三郎|Eizaburo Tomiyama