2024.08.19 EVENT REPORT
毎年恒例「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」が、2024年6月に南フランスはカンヌで開催されました。世界最大級の広告賞から見えてきたクリエイティブ業界の世界的な潮流や受賞作のポイントついて、今回I.C.E.では『カンヌライオンズ2024の最新トレンドを読み解く』と題し、トークイベント「I.C.E. CREATIVE LOUNGE」をおこないました。
登壇したのは、カンヌウォッチャーとして知られる3名。2007年よりカンヌライオンズの取材を続けている編集者・執筆者の河尻亨一氏をゲストに迎え、I.C.E.からは、2005年からカンヌライオンズへ参加し、現地で勉強会・交流会を主催する株式会社キラメキ CEOの石井義樹氏と、同じく長きに渡りカンヌライオンズの視察とクリエイティブトレンドの分析を続ける、株式会社ナディア 取締役 CCOの小川丈人氏が登壇。
カンヌライオンズの開催から1ヶ月弱でおこなわれたこのトークイベントには、現場で活躍するクリエイターやマネジメント層、媒体関係者、大学の広告研究団体と、多方面から参加者が集いました。

世界最大級のクリエイティビティ・フェスティバルは、タフ&エキサイティング

参加者のなかには、カンヌライオンズの勉強会に初参加という方もいらしたため、冒頭では、河尻亨一氏よりカンヌライオンズの概要についてお話しいただきました。

河尻氏:「世界最大級のクリエイティビティ・フェスティバル、カンヌライオンズは、世界最高峰が集うゴージャスな “レッドカーペット” の世界です。30部門あるアワード、公式だけでも約150プログラムあるセミナー、そして飲みながら仕事の話も飛び交うネットワーキングパーティーの“3層構造”になっており、たくさんの催しで忙しい毎日となります。参加者は5日間、朝から晩まで勉強したり受賞作を見たりと、タフ&エキサイティング。世界中からかき集められた最高峰のクリエイティブと、それにまつわる刺激的な学びと交流の機会となりますので、チャンスがあればぜひ体験していただきたいと思います」

その後は、基本データをもとに潮流を解説していきました。
「アワードの各部門は細かくカテゴライズされ、一見複雑に思えますが、点と点を結んでいくと傾向が見えてくる」と河尻氏は語ります。

昨年の話題「AIを使ったクリエイティブ」が2024年は激減。「パーパス」の行方はいかに?

ここからは、受賞作品事例をもとに “今年の傾向” を紐解いていきました。
はじめに紹介されたのは、保護犬の里親募集に取り組むペディグリーのキャンペーンで、スマホで撮影した保護犬の画像から「AI」を用いてモデル犬のようなポージングをしたハイクオリティ画像を生成、街中のサイネージ広告に使用し保護犬と里親をマッチングさせるという施策です。


【ADOPTABLE. by PEDIGREE】(Outdoor部門グランプリ)

次に紹介されたのは、企業の「パーパス」が評価されたルノーの作品。フランスには、交通手段がないことで職に就けない地域があり、貧困問題が生じています。ルノーは、それらの地域に住む求職者に対して、試用期間中はクルマを無償提供し、採用確定後に手頃な条件でローンを組めるというクルマ販売の新しい仕組みをつくりました。企業があるべき姿が称えられた受賞となりました。


【RENAULT - CARS TO WORK】 (SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS部門グランプリ)

河尻氏:「どちらも、本来なら行政がやるべき課題ともいえる、振り切った取り組みです。これらの事例のように、『パーパス(企業の社会的な存在意義)』を表現した広告はここ10年ほど評価され続けていますが、一方で『パーパス』がグランプリの7~8割を占めていた一昨年に比較し、今年は5割程度まで減少しています。それと、昨年はグランプリの4割ほどを占めていた『AIを使ったクリエイティブ』が今年のグランプリにはほぼ見当たらない点も、注目しておくべき今年の傾向です」

二作品の「AI」や「パーパス」の素晴らしさを伝えながらも、河尻氏はこのように指摘しました。

広告業界にコメディが戻ってきた!

河尻氏:「世界的に “パーパス” や “ソーシャルグッド” 疲れが見えるようになってきました。その代わりにコメディが戻ってきた(Comedy is Back)と言われています」

コメディの事例として紹介されたのは、カレッジフットボールの大会に登場した「ポップタルト(米国で人気の朝食用スナック)」のマスコットを使った広告です。マスコットはダンスなどで会場を盛り上げた後、巨大トースターに滑り込み、優勝チームに食べられてしまいます。マスコットが身を挺して勝利を祝う映像はXでミーム化され、全米の話題を集めたそうです。若い世代にも親しまれるスナック菓子を目指しバズったこの施策は、スポンサードコンテンツを嫌うZ世代の価値観も追い風になったのではないかと、河尻氏は語りました。


POP-TARTS【THE FIRST EDIBLE MASCOT】(BRAND EXPERIENCE & ACTIVATION部門グランプリ)

一見すると悪ふざけのような表現が人の心を掴んだ受賞作は、他にもありました。米国で有名なデリバリーサービスDoorDashが、食品だけでなくあらゆる物を配達できることをアピールするため、スーパーボウルの放映中にCMで宣伝された商品すべてを、視聴者一人にプレゼントするキャンペーンを展開。しかし、「応募のためのプロモコードはこちら!」と紹介されたコードは1813文字にも渡り、視聴者は異様に長いプロモコードに翻弄されます。ユーモラスな広告で、その瞬間、非常に多くの人がエキサイトした点が評価され、グランプリを獲得しました。


DoorDash【DOORDASH-ALL-THE-ADS】(TITANIUM部門グランプリ)

河尻氏:「極論すると “パーパス vs ユーモア” のような、面白い状況になっています。どちらかに振り切った施策が受賞しており、中道は受け入れられにくいと。また、企業の周年・記念広告が多く受賞したのも今年の傾向のひとつです。世界的に何かひと区切りをつけたい気分なのかもしれません」
河尻氏:「グランプリ受賞作からは、その年の各業界の傾向と来年以降に向けたメッセージがリアルに伝わってきます。というのも、審査員は次の可能性を最も示唆しているものは何か? という基準で選ぶわけです。ですから、カンヌライオンズに関心のある方はぜひ各部門のグランプリ受賞作だけでもフル視聴されることをお勧めします。そのうえで、ご自身の仕事領域を深掘りいただければと思います」

カンヌで大絶賛された注目作品

続いて登壇したのは、株式会社キラメキの石井義樹氏です。
まずは、今年カンヌで大絶賛されたという、オランダの通信会社・オレンジによる女子サッカーの人気向上に寄与した広告を紹介しました。VFXを使い、女子サッカー選手の名プレイを男子選手に置き換えたディープフェイク動画を作成、最後にタネ明かしされるという構成です。ジェンダー問題を絡めながら女子サッカーのエンターテインメント性を証明し、エンターテインメントとはジェンダーによって境界されるものではないことを示した広告です。

石井氏:「この作品の素晴らしさは、ジェンダー問題を悲観的に表現せず、女子サッカーがエンターテインメントの最高峰に位置することを、人々の熱狂と興奮のなかで明らかにした点です。華麗で激しい見事なプレイに人々は魅了され、エンターテインメントをさらに愛することができました」

河尻氏:「パーパスとエンターテインメント性を両立できた作品で、個人的に今年の頂点です。男子選手に置き換えられた動画の前半部分だけをXで先に公開し、段階的にタネ明かしをしたのも、話題をさらった仕掛けづくりの面白い点でした」


ORANGE【WOMENʼS FOOTBALL】(FILM部門グランプリ / ENTERTAINMENT LIONS FOR SPORTS部門グランプリ)

「ユーモアの活用 (Use of Humour)」追加の背景

石井氏のプレゼンテーションでは、河尻氏が示した今年の傾向「パーパス vs ユーモア」の話を引き継ぎ、「ユーモア」に近年どのような流れがあるかを解説していきました。

石井氏:「ユーモアが注目されているのは昨年からの流れでもあり、今年から各部門のサブカテゴリーに “ユーモアの活用 (Use of Humour)” という項目も生まれました。運営側もユーモアを尊重しようとしているわけです。また、近年では、FILMとFILM CRAFTにおいてはストーリーテリングが大事だよねという話があります」

そう語って紹介したのは「ユーモア+ストーリーテリング」の合体で魅せた、2023年にFILM部門グランプリを受賞したAppleの「Relax, it's iPhone – R.I.P. Leon」と、フランスの有料民間テレビ局CANAL+の「PAPA?」でした。

続けて、石井氏は、タイは「ユーモア」広告が昔から強いと語ります。タイの不動産会社のCM「Sammakorn Not Sanpakorn」と、カード会社であるKrungsri FirstChoice のCM「What The Fast」、今回FILM部門でゴールドを獲得したこの二作品についても石井氏から解説されました。
 

続けて、石井氏は、タイは「ユーモア」広告が昔から強いと語ります。タイの不動産会社のCM「Sammakorn Not Sanpakorn」と、カード会社であるKrungsri FirstChoice のCM「What The Fast」、今回FILM部門でゴールドを獲得したこの二作品についても石井氏から解説されました。


【SAMMAKORN NOT SANPAKORN】 (FILM部門 ゴールド受賞)


Krungsri FirstChoice【WHAT THE FAST!】 (FILM部門 ゴールド受賞)

石井氏はプレゼンテーションの最後に、若手のうちからカンヌライオンズへの参加を経験してほしいと勧めました。例年30歳以下や学生は入場割引があるとのことで、これをチャンスと捉え、ぜひ現地を訪れていただきたいと熱く語りました。

受け手の心を掴み体験化するためのクリエイティブ・クオリティ

最後にプレゼンテーションしたのは、株式会社ナディアの小川丈人氏です。会も終盤になりましたが、デジタルクリエイティブ業界各社でCEOやエグゼクティブクリエイティブディレクターを歴任してきた小川氏の考察に、参加者はじっと聞き入ります。

小川氏:「突然ですが、病院でMRI検査を受けたことがある方はいらっしゃいますか? 実は、私は狭いところが苦手でMRIが好きではないため、受賞作品の中でこれを見たときに感動しました」

そう語って紹介したのが、MRI装置を提供するヘルスケアサービスプロバイダーのSIEMENS HEALTHINEERSが作成した「MAGNETIC STORIES」です。MRI内部で鳴る機械音は、とくに子どもたちにとって苦痛を与えるものです。同社は、MRIを騒々しく怖い体験とならぬよう、ベストセラー作家に依頼し、発せられるすべての音に意味をもたせ、ストーリーに取り入れたオーディオブックを作成しました。例えばある音は、ロボットの効果音になるなど、子どもたちが物語を楽しみながらMRI検査が受けられるようにつくられているそうです。小児がんで闘病中の子どもたちなどが、必要な検査を楽しく受けることができる、顧客体験の素晴らしさについて、小川氏は力説しました。


【MAGNETIC STORIES】SIEMENS HEALTHINEERS (PHARMA部門グランプリ他)

次に紹介したのは、恋人にセクシャルな写真を送ってしまい、それが拡散されてしまった女の子の苦悩を描いた、オランダの通信会社オレンジによる「A PIECE OF ME」を紹介。Z世代に人気のシンガーソングライターが書き下ろした楽曲・歌詞を使用し、SNSなどを経由した若者の性被害について訴えかけた広告作品です。ミュージックビデオのような映像で、SpotifyとYouTubeのヒットから話題化、ターゲットの興味関心を的確に捉えながら社会啓蒙を叶えた点が評価されました。こちらは「企業パーパス&社会的責任」の部門でグランプリ、その他二部門でシルバーを獲得しています。


ORENGE【A PIECE OF ME】 (CREATIVE STRATEGY部門グランプリ、他)

小売店へのエンパワーメントが評価されたB to B領域

小川氏:「Creative B2B部門のグランプリは、謎のお婆ちゃんを起用した『Meet Marina Prieto』という、スペインの地下鉄広告の有効性を示したキャンペーンです。無名のお婆ちゃんがインフルエンサーになっていくストーリーは、まるでは映画のよう。でも個人的には、コカ・コーラの『Thanks for Coke-Creating』が響きました」

「Thanks For Coke-Creating」は、世界中にある小さな個人商店の店先や壁に描かれた、オリジナルの手描きコカ・コーラ ロゴに着目したプロジェクトです。非公式ロゴに大企業が積極的に関与したことが話題になり、カンヌライオンズでは、ゴールドを3つとシルバーを4つ獲得しました。

小川氏:「このプロジェクトでは、お店独自のグラフィティをパッケージにするサービスなどもおこなっており、小売店をエンパワーメントしています。このように、コロナでシリアスな状況になったとき、自分たちを支えてくれている市場をサポートする施策がB to B領域で目立ちました。この他、歴史あるアイリッシュ・パブをAR(拡張現実)技術を使ってミュージアムにしてしまおうという、ハイネケンの「PUB MUSEUMS」もぜひご覧いただきたいです」


Coca-Cola【Thanks For Coke-Creating】(Creative B2B部門ゴールド、他)

さらに、Creative Effectiveness部門を受賞したハインツの施策「IT HAS TO BE HEINZ」が紹介されました。これは、ハインツの容器を使用しながら、実は中身を別のケチャップに入れ替えている店舗を、ユーザーに通報してもらうキャンペーンです。ハインツはそれを取り締まるのではなく、通報された店舗に本物のハインツを送る、というポジティブな行動をとりました。


HEINZ【IT HAS TO BE HEINZ】(Creative Effectiveness部門グランプリ、他)

小川氏:「カンヌのセミナーでは珍しく、毎年必ず登壇する方がいます。そのひとりが、P&Gのチーフブランドオフィサーである マーク・プリチャードさんです。そんな彼が2024年に語ったのは、“日常の中に創造性を見出す” ということでした。消費者やコンシューマーが毎日の生活の中で共感する瞬間を探し当て、ブランド活動に使っていく。ハインツやハイネケンの事例、そしてコカ・コーラもそうですが、市場を支えてくれている方々をエンパワーメントして共に成長していく。そのためには、愛してくれている人たちの心を動かすポイントを見出していかなくてはいけない。そのことは、B to Bの受賞事例からも感じられました」

アイデアとは既存の要素の、新しい組み合わせ

最後に、ゲーム部門でグランプリを受賞した、サッカークラブ運営シミュレーションゲーム「Football Manager 24」の発売20周年記念施策を紹介しました。これは、XboxのGame Passの利用者向けにコンテストを実施し、勝者はイギリスの5部リーグにて実際に戦術家として起用されるというものです。結果的にそのクラブは初の昇格となり、そのドキュメンタリーがTNT Sportsで放映されました。


X Box【THE EVERYDAY TACTION】 (ENTERTAINMENT LIONS FOR GAMING)

小川氏は、2020年に受賞したバーガーキング「STEVENAGE CHALLENGE」など、過去受賞作品も数点紹介しながら、「THE EVERYDAY TACTICIAN」は過去作品のアイデアの掛け合わせがされていると述べ、受賞作品を分析することの大切さを熱論しました。

小川氏:「真摯に熱意を持ってカンヌを追いかけ、研究し続けることは、クリエイティブ業界のプレイヤーとして、クライアントはもちろん、あらゆる企業や社会に最良の課題解決の結果をお渡しするために不可欠なトレーニングだと私は思います。今後もカンヌを追いかけていきます」

最後に、カンヌライオンズに着目し続けることの意義を小川氏はそう語り、質疑応答および懇親会をもって、I.C.E. CREATIVE LOUNGE 第11回『カンヌライオンズ2024の最新トレンドを読み解く』は終了しました。
 

「I.C.E. CREATIVE LOUNGE」は、I.C.E.クリエイティブ人材育成委員会が企画開催するイベントのひとつで、I.C.E.会員以外の皆様もご参加いただける特別な機会です。ぜひ次回以降の開催もご期待ください。
写真提供/I.C.E.総務PR委員会 撮影/山畑俊樹|Toshiki Yamahata
取材・文/富山英三郎|Eizaburo Tomiyama