2024.12.16 EVENT REPORT

加盟社を訪問して交流しながら、スタッフ間の情報共有や親睦を深めるイベント「I.C.E. Meet & Greet」の第4回が2024年11月15日におこなわれました。今回登壇したのは、I.C.E.理事で株式会社ラナエクストラクティブを有する RANA UNITED(ラナユナイテッド)グループ代表の木下謙一さんと株式会社東北新社で26年ものキャリアを積んできたプロモーションプロデュース事業部チーム長の小林弘明さん。イベントはラナユナイテッド の北参道のオフィスで開催されました。

2社のプレゼンテーションでは、両社の沿革や制作事例を中心に、近年に至るまでのクリエイティブの実践が語られました。それぞれの発表の後には会場内外からのオーディエンスの質疑応答が、トーク終了後には懇親会が行われ、参加者の親睦が深められました。

デジタルエージェンシーとして約30年の歴史を持つ (ラナエクストラクティブ)

最初に登壇したのは、ラナユナイテッド代表取締役の木下謙一さん。まずは会社紹介と成り立ちからプレゼンテーションは始まりました。

木下:「1996年頃から私はWebデザインのフリーランスとして活動していたのですが、99年に法人化しました。それが現在のラナユナイテッドの母体になる、ラナデザインアソシエイツという会社です。この会社は現在も営業していますが、事業部を新設したり、分社化するなどを経て、現在の形に至っています」

ラナユナイテッドグループは現在60名が所属、創業時より一貫しているのが「デザインドリブン」であるということです。「私たちは、すぐれたデザインを創り、クライアントと共に結果を追い求めます」とポリシーを掲げ、企業や組織のデジタルドリブンなブランディングを様々なかたちで支援しています。
木下:「代理店さん経由の仕事は1〜2割ほどで、ほとんどはクライアントさんと直接取引であることがラナの特徴です。また、私がつくったカエルのロゴのイメージもあってか、クライアントの多くがどちらかといえば、女性的でやさしいテイストのサービスやプロダクトが多いように感じています」

クライアントご指名のワケは、体現したいモノゴトを捉える力にある (ラナエクストラクティブ)

ここからは、同社が手がけた多数の制作事例が紹介されました。イベントでは、ふんだんに語っていただきましたが、本記事ではその一部をご紹介いたします。
まず最初に触れられたのが、近年担当することが多いという博物館/美術館の事例です。
木下:「これは2024年4月にリニューアルした国立歴史民俗博物館のサイトです。実は国立博物館は、ほとんど大学のようなものなんです。学生がいない大学と思っていただいて構わない。正式に『教授』というタイトルがついたポジションの方がたくさんいらっしゃいます。表側で展示をしつつ、裏側はすべて研究所になっている。展示に関しても教授たちが自分の研究成果を元に企画しているため、学術的に評価される、意欲的な内容のものが多いのが特徴です」
木下:「こちらは2023年の10月に手がけた東京都庭園美術館のサイトリニューアル。世界的にも評価の高いアールデコ様式をモチーフにデザインしました。また近年、I.C.E.でも話題になっていましたが、国公立のプロジェクトでは特にアクセシビリティに注意を払ったサイト制作が求められます。そこで、今回のプロジェクトでもJIS規格AAに準拠しました」

この二館以外にも、三菱一号館美術館、豊田市美術館のWebサイトリニューアルの事例が説明されました。また、関連するアート/カルチャー領域として、国立アートリサーチセンターや日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」のサイトリニューアルの事例にも触れられました。

続いて紹介されたのは、近年取り組むことの多いというブランディング領域での制作事例。昨今、経営において「パーパス(Purpose:企業の存在意義や社会への貢献)」を定める企業が増えています。ところが、設定されたパーパスが社内にうまく浸透しないことも少なくないと木下さんは指摘します。

木下:「パーパスの浸透を図るため、とあるのプロジェクトでは、名刺をはじめとしたパーソナルなツールのリデザインを通じたブランディングをおこないました。その具体的なプロセスとしては、先方の社員さんを交えたワークショップを複数回にわたりおこない、パーパスを体現するデザインに落とし込んでいきました」

企業以外のブランディング事例として紹介されたのが、千葉県柏市のシティブランディングです。人口も増え続け、市としての評価も高まる柏市。市長が旗振り役となり、本プロジェクトは推進されたといいます。

木下:「メインコピーである『つづくを、つなぐ。』の開発、柏の葉をモチーフにしたロゴデザイン。さらにはWebサイトのリニューアルや広報誌、あるいは駅でのポスターなど、多方面に展開していきました。シティブランディングは公共性が前提にあるため、あまねく広い視野での調整が必要になる上で、仕事は個性を打ち出すことが求められます」

また、同社はエンターテインメント領域での仕事も数多く手がけてきました。シンガーソングライターの松任谷由実さんのツアーグッズやグラフィックのデザイン、あるいはMISIAさんのミュージックビデオ制作における生成系CGの活用など、アーティストとの取り組みも紹介されました。

そして近年の代表事例として引き合いに出されたのが、サンリオピューロランドのプロジェクトです。サンリオピューロランドは2020年に開業30周年を迎え、近年のインバウンドの盛り上がりも併せて、再び人気を集めています。

木下:「ピューロランドには着ぐるみやダンサーが出演するステージが数多くあります。そうしたステージにはそれぞれ推し活目的で訪れる人が多くいます。そのため、公演スケジュールと出演者の詳細なリストが組まれています。それを管理するCMSを含め、膨大なページ数のデザインと設計が必要となったプロジェクトでした」

さらには朝日新聞のWebメディアのリブランディングをはじめとしたメディア領域での仕事に加え、UI/UX領域ではスターバックス eGift キャンペーンや、SHIROの無人店舗におけるユーザー体験とデジタル施策をかなえるシステムのトータル制作事例についても語られました。

携わる領域の広さに加え、アウトプットの手法も多岐にわたるラナユナイテッドの事例として最後に紹介されたのが、データビジュアライゼーションの仕事です。

木下:「データビジュアライゼーション関連のプロジェクトでは長年、NHKと仕事をしてきました。これは世の中にある様々なデータをリアルタイム3Dグラフィックスで可視化し、日々放送されているドキュメンタリーや報道番組などで、番組構成要素の一部として様々に応用可能に分析・演出することができるアプリケーションです」

プレゼンテーションの後には、参加者からの質疑応答がありました。「長期案件の継続の秘訣は?」「仕事の獲り方は?」「今後、注目の領域は?」との様々な問いに対し、何でもお答えいただきました。

60年前も今も、伝統と社風は『仕掛ける』こと (東北新社)

続いて登壇したのは、東北新社でプロモーションプロデュース事業部に所属する小林弘明さん。小林さんは1998年に東北新社に新卒入社した後、現在までプロデュース事業を中心にキャリアを積まれてきました。

東北新社は1961年の創業から60年以上の歴史を有する、総合映像プロダクションです。日本にテレビや映画の映像コンテンツが少ない時代に海外から輸入しローカライズ、1970年代にポスト・プロダクションのデジタル化に参入、1989年国内で真っ先に衛星放送配信サービスを開始し事業化、プロデューサーを軸にした制作システムと映像制作へのデジタル技術のいち早い導入で、品質の高いあらゆる映像コンテンツを生み出し続けています。現在の事業内容としては、映画の製作・配給、海外テレビ映画の輸入配給・字幕吹替の翻訳、テレビ番組・CM制作、セールスプロモーション・イベント制作事業と多岐にわたります。

小林さんが所属する、1986年より事業をスタートしたセールスプロモーション事業部の社員数はプロデューサーとPMを中心とした約50名、年齢層は20代の若者世代と50代のシニア世代がボリュームゾーンだそうです。

小林:「まさに親子のようですが、50代の私たちが教わり頼ることもしばしばあります。先程、20代で伸びる人材とは?とのご質問がありましたが、『好き』はすべてを超えていきます。例えば某ゲームタイトルのプロモーション企画では、そのゲームがめちゃくちゃ好きな20代のスタッフに最前線で活躍してもらいました。結果、クライアントの信頼を得ながら急成長したと評判でした」

小林さん曰く、東北新社らしさは、ズバリ『仕掛ける』伝統と社風。創業時より、新たな時代を果敢に切り開く先駆けとして存在感を示し続ける同社は、どのような会社なのか? 小林さん自身も「未だヴェールに包まれている」と語るように、取り扱う制作内容は公に語られることはないので、参加者は熱心に聞き入っていました。

話題を呼ぶ仕事ができるのは、築き上げてきた各部門の力量あってこそ (東北新社)

デジタルの制作事例として、まず初めにご紹介いただいたのは、新宿駅東口駅前広場に面するビルに設置された巨大猫の3Dサイネージ。動画放映直後から国内外で話題となった『新宿東口の猫』は、現在では新宿の新たな観光名所のひとつになっています。

小林:「東北新社のグループ会社であるオムニバス・ジャパンがこの猫のサイネージ制作の開発を担当しました。2022年にはJAA広告賞の屋外・交通広告部門グランプリを受賞。グループのなかに、こうした技術力を持ったチームがいることが、私たちの強みのひとつになっています」

続いて紹介されたのが、当時東北新社が保有していたスターチャンネルの企画で行われた、『DREAMS COME TRUE 5つの歌詩 (うた)』。

小林:「DREAMS COME TRUE の歌詞をドラマ化するというこの企画のおもしろさは、単に映像化するのではなく、その世界観を体験できるライブイベントも開催したことです。横浜アリーナと大阪城ホールで公演をおこなったのですが、いずれのイベントも即完でした。大規模な音楽興行ができるプロモーション部隊がいるのも、私たち東北新社の特長です」

そのほかにも、角川武蔵野ミュージアムにある本棚劇場のプロジェクションマッピングのコンテンツ開発や、日本城郭協会がパシフィコ横浜で開催している「お城EXPO」の企画プロデュース事例も紹介されました。これらの事例から、歴史的事実など間違いが許されない内容や、著作物など守るべき内容を、まずは正しく扱うことができることのできる、同社の経験値の高さが伺えました。

とりわけ、小林さんご自身も印象深い事例として紹介されたのが、渋谷ハチ公の横に「ひつじのショーン」が出現するアート&チャリティプロジェクトです。「ひつじのショーン」はイギリスのアードマン・アニメーションズ制作のストップモーション・アニメで、世界中で親しまれています。

小林:「東北新社は『ひつじのショーン』を制作するスタジオのエージェントを務めています。小児医療のために行われたプロジェクトでは、映画監督の庵野秀明氏をはじめ、総勢29組のアーティストや団体とコラボレーションし、渋谷の街中にオリジナルデザインのショーンを展示。今ではパブリックアートを公共空間に置くことは珍しくなくなりましたが、展示が行われた2016年当時は先進的な取り組みでした」

大盛況の『モンスターハンター 20周年展』の企画 (東北新社)

今回のプレゼンテーションの主題として小林さんが紹介したのが、現在も進行中の『モンスターハンター 20周年 -大狩猟展-』です。この展示はカプコンが保有する『モンスターハンター』のIP (知的財産) をライセンスアウトの形で東北新社が借り、東北新社が主催する形でおこなわれました。

小林:「私たちらしいプロモーションって何なのか? それは、やはり『仕掛ける』ことだと思います。とくに『強いIP × 有料催事』をやっていきたいなと。そこで象徴的な事例が、この『モンスターハンター 20周年 -大狩猟展-』なのです。「六本木ヒルズ」という立地で「夏休み」の時期に「モンハン」を体験できる。この掛け算で当たらなければ企画が悪いということになります。

2024年夏、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーでおこなわれた同企画は、ミュージアムの実空間に『モンスターハンター』のモンスターARが出現するというもの。実に繊細なモンスターの描写のAR映像は評判を呼び、多くのお客様が来場してくれたそうです。武器や防具の図鑑を盛り込んだり、複数来場者でARグラスでの共体験ができるコアコンテンツを用意するなど、リッチな展示体験はSNSの反応もよく、2025年2月からはグランフロント大阪でも開催が予定されています。
「ファンに満足してもらえる」「今までにない体験をつくる」この2つのハードルを超えていくことが企画の鍵になったと小林さんは話します。

小林:「VRはVRで面白いのですが、今回の展示ではミュージアム内にモンスターを出現させるのをしっかりと表現したいと思いました。そこでARグラスを用いて、鑑賞者が同時にモンスターが出てくる様を観ることのできる共体験をつくり出しました。また、タッチスクリーンで防具シリーズを図鑑のようにみてもらうなど、インタラクティブ性も意識して設計しました。」


【モンハン大狩猟展】「3分でわかる!大狩猟展」映像 

さらに、会社として多額の借金をし、大人気IP『モンスターハンター』の節目を盛りあげるプロモーションを主催する挑戦的な企画を成し遂げた経験から、成功に導くチームの在り方についても語られました。

小林:「東北新社一社で主催することが決まってからはまず、社内広報的にモンハンが好きなメンバーに声かけをし、社内横断で集めました。ただ、主催興行は多くのナレッジを要するため、社内完結で開催までこぎ着けるのは大変でした。IPを預かり、自分たちで企画を立て、ビジネスとして成功させる。振り返ると、最終的に最も重要だったのはチームとして成功させるのだという『勇気』だったと思います」

このような大規模な展示の主催を東北新社が担うことができるのは、ここまでのプレゼンでもあったように、映像からオフラインイベントまで、東北新社が幅広いフィールドで事業展開し、ナレッジを蓄積してきたからです。
社内では、この企画展の経験から、別の案件で活用の提案があるなど、社員自身のひらめきの幅が広がったと、裏話も教えていただきました。

質疑応答では、「コロナ禍を経たリアルイベントの今後の動向」「大規模イベントに携わる社内リソース」など、具体的な質問が投げかけられていました。

2社のプレゼン終了後には、オンラインから寄せられていた事前質問にもご回答いただきました。

「ディレクター・PMの進行管理のAIを使用した、業務効率が上がるTipsを教えてください」との質問に対し、小林さんは「現状はAIの活用を検討している段階。一方、音響を扱う部署では翻訳にAIを活用する検証を進めています。あるいはCMの部署では、Vコンの作成にAIを導入しようとしています」と回答。

また、RANAの木下さんには「ビジュアルのプロトタイプ作成に活用しています。ただご質問にあったPM業務で活用するには、まだAIの性能が十分ではないと考えています。今はまだリモート会議に議事録をとってくれるAIアシスタントを入れている程度です」とお答えいただきました。

会の後半は、懇親会で I.C.E. 会員同士、交流を深めました。Meet & Greet では、和やかな雰囲気ながらも、ここでしか聞けない内容を、なかなか会うことのできない同業他社に立場を超えてお話しできる場となっています。
ぜひ次回の開催にご期待ください。
写真提供/I.C.E.総務PR委員会 撮影/西田優太|Yuta Nishida
取材・文/長谷川リョー|Ryo Hasegawa