クリエイターのキャリアに関する最新調査から考察
第一部では、I.C.E.理事でマネジメント委員会委員長の小川丈人氏(株式会社ナディア 取締役 CCO)がモデレーターを務め、理事で同委員会副委員長の佐藤剛氏(株式会社フォーク 代表取締役社長)、同じく理事で同委員会副委員長の山口浩健氏(株式会社D2C ID 取締役社長)が登壇。今年マネジメント委員会が実施した調査『ロールモデル・メンターは本当に必要か? 皆さんの本音を調査!!!』の結果をもとに、クリエイターのキャリアプランについて考察しました。
2024年度、マネジメント委員会では、他にも『みんなの “推しツール” を教えてください!』『クリエイターの秘密のインプット方法』といった、現場のスタッフがすぐにでも活用できるような調査をおこないました。今回のイベントでは、通常はI.C.E.会員社に限る調査結果をお見せしながら各社のマネジメント層が語るとあって、参加者のみなさんは真剣な様子で聞き入っていました。
あなたにロールモデルはいますか? メンターはいますか?
調査結果では「あなたにロールモデルはいますか?」という質問に約55%が「いない」と回答。「いる」と回答した中で約62%が「社内にいる」、約38%が「社外にいる」といった結果でした。一方、「あなたにとってロールモデルは必要ですか?」という質問には、約68%の人が「必要」と答えています。
佐藤氏:「振り返ってみると、私には複数のロールモデルがいました。広告代理店に常駐していた頃は、資料や見積りの作り方はあの人、プレゼンはこの人など、むしろ社外に目標とする方がいました。こんな話をすると、必ずしも社内にロールモデルが必要なわけではないと思われる方もなかにはいるでしょう」
佐藤氏、山口氏ともに、自身の経験から、ロールモデルは社内でなくてもいいと語ります。I.C.E.のように同業のコミュニティが、出会える機会となるかもしれません。I.C.E.では様々な交流の場をつくっていますので、まずは気軽にイベントや活動にご参加いただければと思います。
その他、「メンターはいますか?」という質問では約61%が「いない」と回答。しかし、「あなたにとってメンターは必要ですか?」には、約71%の人が「必要」と答えていた点にも注目。クロス集計をかけたところ、「メンターを必要としている人の半数近くがメンターがいない」ということがわかりました。
小川氏:「メンターとはどのような人ですか? という質問の答えを見てみると、キャリア、仕事、人生の悩み事を相談できる人がメンターと考える人が多いという印象でした。私の場合、社外の業界の先輩方が相談にのってくれました。社外のほうが相談しやすいこともありますよね(笑)」
フォークやD2C IDのメンター制度について、具体的な紹介もありました。フォークでは、部署関係なく申し込みができ、申し込まれたら断れないルールの「1on1制度」があり、その実態についても佐藤氏から語られました。一方、D2C IDのメンター制度は、メンター/メンティーの関係がギクシャクしないように体裁を整えている点が特長でした。
山口氏:「D2C IDには新入社員と中途社員を対象に、一年間限定で業務に関係のない斜めの関係値でのメンター制度があります。年齢や性別、嗜好性を鑑みて人事がメンターをつけ、月に1回、補助金ありのランチからコミュニケーションをスタートします」
自分を理解すると未来のキャリアが見えてくる!
第二部は『キャリアの棚卸しワークショップ』と題して、一般社団法人マーケターキャリア協会から、理事の中村大亮氏(ディップ株式会社 マーケティング統括部長)、代表理事の田中準也氏(株式会社インフォバーン 代表取締役社長)、福島広大氏(フリー株式会社 スモールビジネス事業本部)にご登壇いただきました。
同協会は、「マーケターの価値を明らかにする」をミッションに掲げ、①ビジネスを動かすマーケティングの貢献度を可視化する ②プロフェッショナルとしてのマーケターのキャリア構築を支援する ③ビジネスパーソン・学生のマーケティング思考を育成する この3つをバリューとしながら取り組みをおこなう団体で、代表理事の田中準也氏からは、具体的な活動が紹介されました。
キャリアの鍵は「計画的偶発性」
中村氏:「自分の強みを客観的・本質的に理解するために棚卸しをしていきます。キャリアというのは偶然に左右されることが多いですが、その偶然をポジティブな方向に考えることで、キャリアアップにつながるからです。そのことを “計画的偶発性” と呼びます。棚卸しをして自分の強みを把握することで、未来を想像することができ、自身をプロモーションすることができるようになります」
福島氏:「私は小学生時代から振り返ったことで、自己理解がクリアにできました。すると、自分は何がやりたいのかをストーリーで語れるようになり、それが相手に伝わると、面接なども含め計画的偶発性が効いてくるんです」
福島氏からも『キャリア棚卸し』の有効性が語られ、参加者の清々しい表情からも、有意義なワークショップができたと感じられました。
https://i-c-e.jp/file/tool/management/2024_09_17_career_sheet.xlsx
どんなクリエイターと仕事がしたいか?
セミナーでは、各者が手がけられたユニークな施策の成功事例等、興味深いお話をたくさんいただきましたが、本記事では各テーマの答えとなる部分を抜粋して紹介していきます。
ひとつめのテーマは、「どんなクリエイターと仕事がしたいか?」。
様々な企業の組織改革と株価向上を実現してきた田中氏は、「はなまるうどん」「吉野家」の事例紹介を交えながら、お話しくださいました。バブル全盛に海外展開したヤオハンの経営企画室に所属されていた田中氏は、バブル崩壊とともに倒産劇をリアルに体験したことで、「強い組織をつくりたい」というアイデンティティが形成されたと語ります。組織や事業のマネジメント/コンサルティングをするなかで、協業したいと思えるクリエイターはどのような人物なのか、会場のみなさんは一心に聞き入ります。
田中氏:「業界の常識を飛び越えた ”“妄想力” を企画してきた私からすると、クリエイターには “時流を読む力” が必要だと思っています。株価や売上を上げることを目的とする私たちマーケターは、常に世の中をどう動かしていくかの仕組みづくりができるかを考えていますので、まずはトレンドの把握ができているクリエイターであること。某著名クリエイターは “街に出て、変態を探せ” とよく仰っています。私もその言葉に共感していまして、街で見つけた5年前の変態が今のトレンドリーダーになることがあります。時流を掴むセンスを学ぶには、とにかく街に出てください。それしかないと思います。
クリエイターには、常に嗅覚を持っていて欲しいですし、同時にそのコンテンツやマーケットのファン、さらには現場スタッフのことまで理解していて欲しいですね。そのうえで、時代の空気感を丁寧に言語化できる能力も求められます。人気キャラクターを使えば売れるわけではないんです。これをわかっているクリエイターって実は少ないんです」
田中氏は、ストーリーを語れることの大切さについても説きました。第二部のワークショップでも「自分のストーリーを語れない人は、会社のストーリーは語れない」というお話しがありましたが、クリエイティブ制作においても、「エンターテイメントのストーリー」つまり、世の中のトレンドを汲んで、今ならこういうメイクですよねと紐付けができるクリエイターならば、安心して相談ができると語ってくれました。
中村氏は、田中氏の考えに共感を述べながら、コンペでありがちな「置きにくる企画」についての指摘を、厳しくも温かい言葉で語ってくださいました。
中村氏:「私は、ワンパクの阿部さんとの仕事がとても印象的でした。ある事業会社に所属していた頃、メディアの立ち上げで8社コンペをおこない、阿部さんも参加されました。彼は野武士的な感じで、私たちに対して否定もしてくれ、常に主語がユーザーだったんです。コンペ参加社のなかには、逆に、置きにくるような企画だったり、さらには、この企画の決済は誰がされるのですか? なんて質問を受けたりもしました。ユーザーではなく、発注元の決済者に目が向いている人と仕事をしたいとは思えません」
廣澤氏は、自身が担当していた化粧品ブランドの事例を紹介しながら、田中氏と中村氏も交え、「理解」の深度と「クリエイティビティ」の専門性について、クリエイターが努めていくべき具体的なお話しをされました。
廣澤氏:「公式サイトに出ているような情報を把握していないなど、ブランドに関心をもっていないと残念に感じることも時にはあります。最初からすべてを理解できるとは思いませんが、理解度を高めるために、パートナーとしてお互いに努力できる関係でいたいなと思います。また、自分が得意なこと、好きなものを持っていて欲しいですね。そこがあると、この人に頼めば、こんな感じのものになりそうだなって想像できるじゃないですか。また、安心してお任せできるには、広い分野のクリエイティビティに精通していて、リファレンスの引き出しが豊富であることも重要だと考えます。信頼できるクリエイターは、僕がつくった60~70点の荒削りなアイデアをシャープな企画に落とし込む力があると、経験から感じました。私が考えたシナリオをそのまま起こした制作案だけでなく、クリエイターの観点からアイデアとインサイトがより共感的に伝わる案も考えてくださったことがあり、嬉しかったですね」
クリエイションの基盤にある心構えと経験値
ふたつめのテーマは「どんなキャリア・マインドセットのクリエーターだと安心感があるか?」。
中村氏は第二部のお話しを踏まえて「自分が得意でないことも含めて、自分自身を理解している人」、廣澤氏は「たとえ実績がなくても自信がある人」と語りました。
「修羅を経験している人」という田中氏は、自分の正しいと思う道が、難しいものや、誰も成し遂げたことがなくとも、逃げずにやりきれた経験が自信を生み、周りにも安心感を与えていくとお話しされました。
田中氏:「マインドセットというのは周りの5人の平均が自分になるので、その平均を変えればいいだけです。行きたい場所に向けて周りにいる人物を変える、それがすべてなんじゃないかなと思います」
3つめのテーマは「指名されるクリエイターになるために、どんな経験を積めばいいか?」。
廣澤氏:「目の前にある案件すべてに、手を挙げることだと思います。というのも、経験値でいえば諸先輩方には絶対勝てません。若い人が持っているリソースは時間だけだと思うので、その時間を使っていかにいろんな経験をするかだと思います」
中村氏:「今、あるプロジェクトでクリエイターを探しているんです。例えばサービス名称を連想させるならこの人、お行儀良く世界観を打ち出すならこの人と、何かしらの強みが見える人を選んでいます。そういう意味で、強みを磨き込むと “これならあの人” と想起されるクリエイターになれると思います」
田中氏:「シンプルに自分の代表作をつくることだと思います。そのためには、飛び込み営業で企画を売り込んでいくのもいいと思います。周りにいるスーパースターたちは、みんな自分から課題を見つけて飛び込んで売り込んでいます」
若手クリエイターへ向けてメッセージ
最後に、若手クリエイターに向けたメッセージが語られました。
中村氏からは、まずは自己理解をしたうえで社会課題に自身の強みを存分に発揮してほしいといった言葉が、廣澤氏からはチャンスを掴むために『U35 Creative & Communication Award 2024』にご応募いただきたいとのメッセージが、田中氏sからは、どんなに若手でも仕事がしたいと思われるような「品格のあるクレイジー」を目指してほしいとの激励が贈られました。
会場では、三者三様の視点から見た、良いクリエイターの条件が率直に語られました。そんな貴重な話をすべて聞くチャンスは滅多にないことですので、ぜひ今後のキャリアセミナーにも足を運んでいただければと思います。
I.C.E.では今後も、デジタルクリエイティブ業界で働く方々がすぐに活かせる情報発信をおこなってまいります。
取材・文/富山英三郎|Eizaburo Tomiyama