『持続可能なパートナーシップ構築のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】』を2025年10月1日(水)に共同で発行した日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)、日本広告制作協会(OAC)、Interactive Communication Experts (I.C.E.)の5団体は、2025年11月28日(金)に、合同セミナーを開催いたしました。
当ハンドブックの背景にある考え方と具体的な活用方法を深くご理解いただき、日々の業務に役立てていただくための貴重な機会として、本セミナーは開かれました。参加者は、広告主/広告会社/制作関連会社と広くお集まりいただき、5団体以外からも多数のお申し込みがありました。(申込総数:300名弱)
より働きやすく、ハラスメントのない制作環境の実現。各種法令にもとづいた適正な取引の実行。地球環境への配慮。生成AI時代への対応。山積する課題をクリアしていくためにも、私たちは改めて持続可能な制作プロセスを考え直す時期を迎えています。その新たな指針として策定された当ハンドブックのポイントについて、映像制作会社・グラフィック制作会社・WEB制作会社・広告会社それぞれの立場から解説されました。
▶︎アーカイブ動画はこちらからご覧ください。
https://youtu.be/eBHsaUosAcQ
よりよい広告活動を実現するための共通言語・行動指針をI.C.E.も加わり5団体共同で発行
冒頭、経済産業省の荻野洋平氏よりご挨拶があり、当ハンドブックが省庁のなかでも紹介され期待を寄せられていること、当ハンドブックを活用し実行性を高めていただくことが重要との見方を示されました。先日、日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)が経済産業省を訪れ山田堅司 経済産業副大臣から価格取引適正化についてご要請をいただいた際には、本ハンドブックが紹介され、中小企業庁の委員会においても好事例として取り上げられているそうです。
荻野氏:2025年9月の価格交渉促進月間の調査結果が発表されましたが、価格転嫁率は前回3月の調査から約1ポイント増(53.5%)で右肩上がりに推移していますものの、業種ごとに差があり、交渉が叶わなかったという声は横ばいでございました。そうした中でこのハンドブックのような取り組みについては大変ありがたく思っております。(今回の2018年からの改訂についても)時代に応じてリニューアルいただいていることに大変感謝しておりますし、発注側受注側ともに協力して取り組まれているのは好事例だと。山田堅司 経済産業副大臣からも申しあげたとおり、このハンドブックをより実行性を高めていただくところが重要かと思いますので、実際の現場での取引活動に好影響をもたらしていただきたいなと期待してございます。ご発展を願っております。
開会の挨拶は、日本アドバタイザーズ協会 事務局長の高田秀人氏がおこないました。同氏からは、当ハンドブックの制作背景や特徴についての説明がありました。
2018年の働き方改革関連法の成立と翌年の施行を受け、I.C.E.を除く4団体による広告制作業界における働き方改善を円滑に進めるための円卓会議を経て2018年9月に発行されたのが、初版となる『新しい働き方のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック』です。この時I.C.E.も足並みを揃え、デジタルクリエイティブ制作における受発注において共通認識を高めながら制作プロセスを横断的にマネジメントするためのガイドライン「制作プロセスマネジメントハンドブック(2018年6月版)」を独自に策定し、誰でも使用できるよう公開、他4団体の取り組みと親和性をもって活動を続けていました。(その後2022年にも改訂あり)
そして今回、I.C.E.も加わった5団体で、現在の広告制作業界が直面するテーマに対応するために大幅改訂されたのが『持続可能なパートナーシップ構築のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】』となります。
高田氏:2018年から7年間、広告制作を取り巻く環境は、めざましいスピードで変化してきました。コミュニケーション領域の拡大とデジタル技術の進化により、その手法が多様化複雑化し、サステナビリティへの社会的要請に求められる昨今、広告制作の現場においても、従来の働き方改革だけでなく、取適法(中小受託取引適正化法|下請法改正し2026年1月施行)をはじめ法令に遵守した公正で透明な取引環境の整備、地球環境負荷やAI技術への対応など様々な課題に取り組まなければなりません。このような時代のなかで業界全体の持続的な成長のためには、発注者と受注者が相互に価値を生み出すパートナーシップが必要不可欠だと確信しています。当ハンドブックは、この目標を達成するため実務レベルでの具体的な道筋を示すことを目的とし、最新の動向を踏まえて改訂されました。単なるルールブックではなく、よりよい広告活動を実現するための共通言語・行動指針として捉え、みなさまの企業活動において積極的にご利用いただきたいと思います。
そして高田氏からは、今回の改訂版にあたって大きく2つの特徴が示されました。
一つめは、CM・動画/グラフィック/ウェブ、それぞれの制作フローのフェーズごとに各プレイヤーを明確にしている点、二つめは、受発注の内容を相互に確認するための確認書のフォーマットを用意している点が特徴で、より実務に即しているとのことです。
資料:
・サポートキット:持続可能なパートナーシップ構築のための広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】』
・プレス:広告制作プロセスマネジメントハンドブック【2025年度版】発行について
時代に合わせて改めるべきこと
ここからは、各団体を代表する登壇者による、ポイント解説がおこなわれました。
ファシリテーターは、広川雅典氏(日本アド・コンテンツ制作協会)、沼澤忍氏(電通/日本広告業協会)です。
沼澤氏:⽇本の総広告費は7.6兆円(2024年|3年連続前年越え)となりましたが、その47.6%にあたる3.6 兆円をインターネット広告費が占めています。プロモーション広告費は1.68兆円となっておりまして、様々なメディアに対してのコミュニケーションツール制作が広がるなかで5団体が集結し、半年から1年ほどをかけて今回のハンドブック改訂に至りました。広告制作は関係するいわば “知っている者同士“ が、ある種の柔軟性をもちながら機動的に効率よくつくってきた「コンパクトな世界」です。その良さもありますが、いまの世の中では逆に問題が見えてきた部分があります。
広川氏:阿吽の呼吸で進められることは悪いことではないですが、バブル崩壊やリーマンショックといった急激な経済不況当時、広告の仕事がシュリンクし、受注される制作側が発注者に忖度するようになりました。それが一時的なものではなく未だに続いていることも(今日の広告制作環境の原因となった)ひとつかなと思っています。
このように、旧態依然としていた従来からの受発注慣習を時代に合わせて改めていかなければならないことを再度、問題提起されたうえで、各解説がはじまりました。
詳しい解説はアーカイブ動画をご覧ください。
改訂のポイントについて
JAAA制作取引委員会の立場から岡野敏之氏(電通/日本広告業協会)より、本ハンドブックの背景/主な変更点/制作ガイドラインの目標/取引における注意点/制作環境の改善に向けて/その他留意点/広告主・広告会社・制作会社に求められる役割が解説されました。
岡野氏:主な変更点といたしましては、新たにI.C.E.が参加することで「広告4団体合意」から「広告5団体合意」となった点、長時間労働の削減に重きを置いた「平成30年ルール」を深化させ受発注段階でのプロセスやコストに関する合意形成を強化した「2025年ルール」への更新をした点、働く人にとっても地球環境にとっても持続可能なスキームの実現を目指す「広告制作ガイドライン」を制定した点の3つです。
CM動画編/グラフィック編/WEB編と各領域のポイント
CM動画編の改訂ポイントを語ったのは、日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)の中嶋秀明氏。改訂ポイントの他、5団体の「広告制作ガイドライン」に映像制作領域のルールを補完した「JAC映像制作ガイドライン」を策定し、適正な現場環境の構築とよりよい業務進行のため、関係者に協力を求められました。
中嶋氏:主な改訂ポイントは、制作フェーズのフローにデジタル動画のスケジュールを追加したこと、制作会社のポイントに「生成AI活用時のリスク」を追加したこと、「初号フォーマットの仕様」「成果物/素材補完・管理・廃棄について」「保管費について」を追記したこと、送稿フェーズの作業内容をより詳細に記載したこと、送稿フローに「字幕ありの場合」のフローを追加したことです。
グラフィック編について語ったのは、日本広告制作協会(OAC)の湯浅洋平氏。確認書の活用を推奨する背景を解説、制作途中でも相互の確認が必要だと強調しました。また、生成AIの活用についても受発注者間での合意形成の大切さを語りました。OACでは、制作会社は発注者に使用状況を伝え、了承を得たうえでの原稿制作をすることを追加しています。
湯浅氏:冒頭にありましたように今回の改訂は初版時の健全な働き方に加えたデジタル化における業務の多様化・複雑化への対応、受注者保護の強化、制作にまつわる環境負荷への対応の3点が挙げられております。グラフィックの作業につきましても多様化・複雑化がおきておりまして、発注者も制作物もともに多岐に渡る特徴があるため、確認書の活用を推奨しています。受発注者間では、制作アイテムや数量、納品形態、権利処理、使用期間などわかる限りでベースの取り交わしをおこなっていくことが大切です。業務発生時に決まっていないことも多く、制作途中に都度確認書を取り交わしていくのは業務過多にもつながりますが、受発注者双方で確認していく必要があります。JAAAでは「確認書フォーマット」をご用意しておりますので、ぜひご活用ください。
WEB編について登壇したのは、I.C.E.理事で制作委員会委員長の松田成正氏です。WEB編のポイントは、すでにI.C.E.独自で作成した「制作プロセスマネジメントハンドブック」をもとに解説、企画/設計/制作/運用の4フェーズごとに具体的なタスクとそれに対するアウトプット内容を記載し「発注者と制作者の作業分担を明確化」すること、フェーズの後戻りを原則禁止すること、納品で完了せず公開後にサイト改善のPDCAサイクルを回してサイトを運用すること、メディアを横断してタイミングよくマネジメントすることの重要性を示す「コンテンツ制作業務フロー」の掲載を挙げたほか、今回新たに追加した「確認書」についても話しました。
松田氏:I.C.E.では加盟各社が集まり、ガイドラインやSOWなどを作成しサポートキットページで公開、業界発展に貢献する活動に取り組んでいます。今回、2018年独自につくった「制作プロセスマネジメントハンドブック(2018年6月版)」についてフォーマットを揃えながら改変しています。
今回のポイントとしては、確認書を活用していきましょうということ。契約書や発注書が発生・存在しない場合が多いデジタルクリエイティブ制作の場合でも、発生したタイミングで「確認書」を作成しましょうと今回新たに追加しております。
取材・編集/清野琴絵|Kotoe Seino